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有栖川有栖の鮮烈なるデビュー作【月光ゲーム】

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~最高の舞台で最悪の合宿~
有栖川有栖『月光ゲーム』東京創元社

 

 

 

 

あらすじ

 

夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々を、予想だにしない事態が待ち構えていた。山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われたように出没する殺人鬼! 有栖川有栖のデビュー長編。


引用元:月光ゲーム Yの悲劇'88|東京創元社
(https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488414016)

 

 

主要登場人物

【英都大学推理小説研究会(EMC)】
江神 二郎(えがみ じろう)
文学部哲学科の4回生。
EMCの部長。長髪。
頭が切れるのに、なぜか4回生を繰り返している。

 

望月 周平(もちづき しゅうへい)
経済学部2回生。
痩身でメタルフレームの眼鏡をかけている。
熱狂的なエラリアン。

 

織田 光次郎(おだ こうじろう)
経済学部2回生。
ずんぐりとした体格で頭は慎太郎刈り。
ハードボイルドファン。

 

有栖川 有栖(ありすがわ ありす)
法学部1回生。
本作品の語り手。通称アリス。


【雄林大学・ウォーク】
北野 勉(きたの つとむ) 
経済学部3回生。
同好会〈ウォーク〉の旗振り役。
健康的に焼けた肌をしている。

 

司 隆彦(つかさ たかひこ)
商学部3回生。
見るからに粗暴そうな男。声が大きい。
ヘヴィスモーカー。

 

戸田 文雄(とだ ふみお)
法学部2回生。
司法試験合格を目標に掲げている。
キャンプに小六法ほどの勉強熱心。

 

竹下 正樹(たけした まさき)
理学部2回生。
髪型は坊ちゃん刈り。
ほかの登場人物たちになぜかボロクソ言われる。

 

晴海 美加(はるみ みか)
文学部3回生。
シャープな顔立ち。
アリス曰く「尖った顎に意志の強さを示す」。

 

菊地 夕子(きくち ゆうこ)
文学部2回生。
菊池ではなく菊"地"。とても明るい性格。

 

嵐 竜子(あらし たつこ)
文学部1回生。
名前に反してシャイな性格。

 

【雄林大学・ゼミ】
一色 尚三(いっしき しょうぞう)
法学部3回生。
鼻の下髭をたくわえている。
ボーイスカウト出身。

 

見坂 夏夫(みさか なつお)
法学部3回生。
細面の好男子。美声。
実家は神社。

 

年野 武(ねんの たけし)
法学部3回生。
アリス曰く「陰の人」。

 

【神南学院短期大学】
山崎 小百合(やまざき さゆり)
英文科1回生。
クリスチャンで十字架を下げている。
アリス曰く「きれいな人」「魅力的」。

 

姫原 理代(ひめはら りよ)
英文科1回生。
艶やかな黒髪の持ち主。

 

深沢 ルミ(ふかざわ るみ)
英文科1回生。
髪型はポニーテール。電波系。

 

特徴

有栖川有栖の実質的なデビュー作にして"学生アリス"シリーズ*1の幕開けを飾る記念すべき作品です。

 

▼"学生アリス"と"作家アリス"について(折り畳み) "学生アリス"と"作家アリス"シリーズは互いにパラレルな世界です。作中では"学生アリス"に登場する大学生の有栖川有栖が"作家アリス"を執筆し、"作家アリス"に登場する推理作家の有栖川有栖が"学生アリス"を執筆している(する)、という設定です。

 

物語は、火山の噴火によってキャンプ場が外界と遮断されるクローズド・サークルの状況で進行し、その極限状態で殺人事件までもが発生します。

 

『Yの悲劇'88』という副題からわかるように、本作にはエラリー・クイーンの影響が随所に感じられ、緻密で論理的な解決が重視されています。ミステリに対するスタンスは、登場人物のひとり、望月周平の冒頭の発言が示唆的です。

 


「邪教の徒には判らぬわい。――僕は常々思うてるんやけど、論理の松明を掲げた探偵があり得た唯一人の犯人の特定に読者を導くっていう、純粋なフーダニットというのは本当に少ない。それこそ、ポオの『マリー・ロジェの謎』と、クイーンの初期の作品群くらいやないかとね」
 うちのクラブの中で、ミステリを論じるのが一番好きなのが彼である。
「本格推理小説のことを英語でパズラーって言うけど、あんないいかげんなパズルがあるもんかい。ヴァン・ダインにしても、アガサ・クリスティにしても『誰が殺ったか』を命題にしてるくせにその実体はどうや? 誰もに犯行の動機と機会があったって書いておきながら、最後には『犯人はAだ。彼は二階の寝室へ本を取りに上がった時に、テラスへ通じる石段を降り、フランス窓から書斎に侵入して被害者を殺すと、大急ぎで石段で二階へ戻り、何くわぬ顔で階下へ戻ったのだ』てくるやろ。アリバイがなかったんはAだけやないのに、何でいきなりAなんや? Aが二階へ行った時が犯行のチャンスやいうのは判ってるんや。何でBが離れに行った時でもなく、Cが玄関のベルを鳴らす前でもなく、Aが二階へ上がった時やと特定できるのか、ひと言でも説明して欲しいんや」

 

引用元:(月光ゲーム、1994年、東京創元社)


クリスティやヴァン・ダインが枕元に立ちそうな勢いの発言です。
聞く人が聞けば新たな事件も起こりかねないでしょう。

 

ミステリ談義が行われる作品にはありがちですが、有名どころのミステリをある程度読んでいないと置いてけぼりを食らう場面もあります。

ただし初読では理解できなかった部分が、再読時に新たな発見をもたらすのも、こうした作品ならではの楽しみ方ではないでしょうか。

 

この小説に向いている人

・ロジックを重視している。
・読者への挑戦状を求めている。
・ダイイングメッセージが好き。

 

この小説に向いていない人

・派手なトリックを期待している。
・動機を重視している。
・多感な学生の恋愛描写が苦手。

 

まとめ

犯人限定のエレガントなロジックが秀逸な作品です。

 

さらに、クローズド・サークルやダイイングメッセージ、読者への挑戦状といった、ミステリファンの心をくすぐる要素が満載で、愛好者にはたまらない魅力があります。

 

ただし、派手なトリックやド肝を抜くどんでん返しを期待すると、やや物足りなく感じるかもしれません

 

また、青春ミステリとして多感な心理描写が描かれているため、そういった側面をじれったく感じる方には不向きといえるでしょう。

 

それでも、手がかりの扱い方や犯人を絞り込む推理の流れは見どころ十分。"日本のエラリー・クイーン"の名にふさわしい作品です。

 

コミカライズ

1巻完結です。

全体的によくできていますが、駆け足に過ぎる展開がやや気になります(続編の『孤島パズル』は全3巻)

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

孤島パズル

続編です。

『月光ゲーム』を読んだならば、この作品も読まなければもったいないです。

 

 

シャム双子の謎

作者はエラリー・クイーン
『月光ゲーム』内でたびたび触れられる、関連性の高い作品です。
翻訳は複数あるので、好みに合うものを選んでみてください。

 

体育館の殺人

作者は青崎有吾
"平成のエラリークイーン"と喧伝される作家のデビュー作です。

 

 

*1:別名:江神シリーズ