~「だれかれ」でも「たそかれ」でもない~
法月綸太郎『誰彼 新装版』講談社
前作↓
あらすじ
謎の人物から死の予告状を届けられた教祖が、その予告通りに地上80メートルにある密室から消えた! そして4時間後には、二重生活を営んでいた教祖のマンションで首なし死体が見つかる。死体は教祖なのか? なぜ首を奪ったのか? 連続怪事の真相が解けたときの驚愕とは?
引用元:『誰彼 新装版』(法月 綸太郎) |講談社
(https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000347917)
主要登場人物
●法月父子
法月 綸太郎(のりづき りんたろう)
日々締め切りと格闘する推理小説家。長身でこざっぱりとした感じの青年。
捜査一課からたびたび(非公式に)協力を求められている。
父親である貞雄には敬語を使って話す。
法月 貞雄(のりづき さだお)
警視庁捜査一課の警視。綸太郎の父親。
捜査が難航するたび息子を現場に招聘するが、職場では黙認されている。
●汎エーテル教団
甲斐 辰朗(かい たつろう)
教団の教祖。
「異来邪」と名乗る人物から脅迫状を受け取る。
甲斐 留美子(かい るみこ)
辰朗の妻。
子供に恵まれなかったことから、養子縁組を考える。
山岸 裕実(やまぎし ひろみ)
辰朗の個人秘書。
綸太郎にとっては、旧友の元恋人でもある。
斎門 亨(さいもん とおる)
留美子の理の兄。教団の実務担当。
綸太郎曰く「頭の薄くなったポール・サイモン」。
江木 和秀(えぎ かずひで)
高齢の弁護士。
甲斐留美子から養子問題について相談を受けている。
特徴
法月綸太郎シリーズの第2作です。
タイトルの『誰彼』ですが、「だれかれ」ではなく「たそがれ」と読みます。
かつて私は「だれかれ」と読んでしまい、知人に鼻で笑われた苦い経験があります。皆さまはどうか、同じ轍を踏まれませんように。
(とはいえ、「だれかれ」って、声に出して読みたくなる日本語ではありませんか?)
ちなみに、いくつかのウェブサイトを参照したところ、「黄昏(たそがれ)」の語源は古語の「誰そ彼(たそかれ)」であり、その古語は「あれは誰だ?」という意味だそうです。
夕暮れ時、人の顔が見分けにくくなることが由来とのこと。
(やっぱり「だれかれ」でいいじゃん。「だれ? かれ?」って、口語でも自然ですよね)
さて、前作『雪密室』がカーの影響を色濃く受けていたのに対し、本作ではデクスターの影響が随所に見られます。
特に、大山誠一郎が新装版の解説で指摘しているように、『謎まで三マイル』(原題 “The Riddle of the Third Mile”)*1が思い起こされますね。
二転三転どころじゃない、推理のスクラップ&リビルドが何よりの魅力です。
個人的には、ある人物が言い放つ「あなたはいつも、そんな方法で事件を解決しているの?」がツボ。
この小説に向いている人
・首無し死体、双子、教祖といった語群に惹かれる。
・『謎まで三マイル』を読んだことがある。
この小説に向いていない人
・機械(物理)トリックを重視している。
・長い小説を読むだけの時間がない。
まとめ
死体の正体をめぐる、いわゆる被害者当ての要素のあるミステリです。
(当時はDNA鑑定が導入されていませんでした。)
最大の特徴は、スクラップ&リビルドの多重推理。何度もひっくり返される展開に、気づけばページをどんどんめくってしまう――そんな読み心地が味わえます。
あと、『誰彼』というタイトルの命名に関するエピソードも、新装版の"付記"に詳しく語られていますよ。
*1:ちなみに国立国会図書館に本登録(仮登録ではない)をすれば、国立国会図書館デジタルでも大庭忠男による翻訳(早川書房)を読むことができます。ほかにも色々と古い作品を読めるので、興味がある方はどうぞ。なお、本登録の完了には長い場合で数ヶ月待たされます。