~機械(物理)トリックの乱れ撃ち~
鴨崎暖炉『密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック』宝島社
このページには前作『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』のネタバレが含まれています。
未読の方はご注意ください。
〈前作記事〉
あらすじ
日本有数の富豪にしてミステリーマニア・大富ヶ原蒼大依が開催する、孤島での『密室トリックゲーム』に招待された高校生の葛白香澄は、変人揃いの参加者たちとともに本物の密室殺人事件に巻き込まれてしまう。
そこには偶然、密室黄金時代の端緒を開いた事件の被告と、元裁判官も居合わせていた。
果たして彼らは、繰り返される不可能犯罪の謎を解き明かし、生きて島を出ることができるのか!?
引用元:宝島チャンネル
(https://tkj.jp/book/?cd=TD037329)
主要登場人物
葛白 香澄(くずしろ かすみ)
主人公にして語り手。17歳。
一応受験生ではあるが、推理小説ばかり読んで日々漫然と過ごしている。
朝比奈 夜月(あさひな よづき)
香澄の幼馴染。21歳。
ゆるふわ系の美人であり、チュパカブラを探している。
作者の推しキャラでもある。
蜜村 漆璃(みつむら しつり)
ミステリアスな雰囲気を纏う美少女。18歳。
文芸部に所属している(ほかの部員は香澄のみ)。
壮絶な過去の持ち主。
ポワロ坂 耕助(ぽわろざか こうすけ)
探偵系ユーチューバー。35歳。
かつては刑事だったが、探偵に顎で使われる生活に嫌気が差したため退職。
一人称は「吾輩」。気が昂ると、灰色の脳細胞が火を噴きそうになる。
外泊里 英美里(そとどまり えみり)
髪も肌も服も白い、白づくめの少女。
年齢不詳。自称、千年を生きる吸血鬼。
語尾に「~じゃ」をつける喋る。
黒川 ちより(くろかわ ちより)
元東京地方裁判所裁判官。28歳。
日本に空前の密室殺人ブームを巻き起こした張本人。
現在は弁護士をしているが、業界から干されており長らく仕事からは遠ざかっている。
ジェネラル音崎(じぇねらる おとざき)
探偵系シンガーソングライター。32歳。
代表曲は『彼女が密室で殺された日』。
探偵としても活動しており、その実力は上々。
『この密室探偵がすごい』で8位に選ばれた過去がある。
アンソニー・ジェントルマン
宗教団体『暁の塔』の幹部。67歳。
銀縁の丸メガネを掛けた白人男性。
香澄いわく、「ただならぬ雰囲気を纏っている」。
大富ヶ原 蒼大依(おおとみがはら あおい)
個人資産約1兆円を保有する大富豪。24歳。
語尾に「~ですわ」をつける喋る。
香澄いわく、「かなり倫理観に欠けている」。
執木 浩市(しつぎ こういち)
大富ヶ原蒼大依の執事。27歳。
背の高い精悍な顔立ちの青年。
かつては遠山羊子と婚姻関係にあった。
遠山 羊子(とおやま ひつじこ)
大富ヶ原蒼大依の執事。25歳。
燕尾服を着た人好きしそうな女性。
かつては執木浩市と婚姻関係にあった。
レティシア・ブレックファースト
大富ヶ原蒼大依の専属料理人。28歳。
モデルのようなスタイルを誇る白人女性。
得意料理はオムレツ。
山崎 医織(やまざき いおり)
大富ヶ原蒼大依の主治医。29歳。
背が低く童顔で、大きな黒縁の眼鏡を掛けている。
やたら泣き言が多い。
特徴
『このミステリーがすごい!』大賞でデビューを果たした、鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』の続編です。
まさに前作の正当進化形というべき作品であり、密室てんこ盛り、けれん味たっぷりのハイカロリーなミステリに仕上がっています。
キャラクターは前作の主役3人(葛白香澄、朝比奈夜月、蜜村漆璃)が続投しており、彼ら彼女らが織りなす会話劇が好きだった方は、きっと今作も楽しめることでしょう。
UMA(未確認生物)要素もどうやら定番ネタになったらしく、前作でイエティを追い求めていた夜月は、今作ではチュパカブラを探しています。
※チュパカブラのイメージ画像。
出典:Webムー ボリビア農地でUMAを激撮!
(https://web-mu.jp/paranormal/19860/)
イエティならいざ知らず、夜月がこの化け物(?)のどこに惹かれたのかはまったくもって不明です。
※イエティのイメージ画像。とてもかわいらしいですね。
出典:TURBOSQID
(https://www.turbosquid.com/ja/3d-models/big-foot---sasquatch-3d-model-1369707)
まあ『密室黄金時代』を楽しめた方は大丈夫でしょうが、引き続き、登場人物も文体もライトノベル風(特に男性向け)な点にはご注意ください(作者の鴨崎暖炉さんは元ライトノベル作家志望です)。
例えば登場人物のひとり「ポワロ坂耕助」ですが、外見は次のように説明されています。
すると、そのタイミングでコテージの扉がガチャリと開いた。そして中からシャーロック・ホームズの格好をした小太りの男が現れた。
引用元:(『密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック』、2022年、宝島社)
"鹿撃ち帽にインバネスコート"というような形容はありません。(※1)
こういった傾向は全編を通じて見られるものなので、少しでも違和感を覚える方は読み進めるのがストレスになる可能性があります。
もちろん良い悪いではなく好みの問題です。
個人的にはこれも作品の雰囲気に合っていてアリだと思いますね。
※1一般に定着している姿はこれですが、原典のホームズはまた別の格好をしています。
この小説に向いている人
・密室が好き。
・機械(物理)トリックが好き。
・事件現場やトリックの図解が好き。
・コミカルなキャラクターが好き。
・ミステリ界隈のパロディ、オマージュが好き。
・ドラマ、アニメ、漫画などのパロディ、オマージュが好き。
この小説に向いていない人
・犯人の動機を重視している。
・トリックの再現性を重視している。
・コミカルなキャラクターが苦手。
・会話文のオウム返しは好きじゃない。
・美形の若い女性ばかりが登場する作品はいただけない。
まとめ
小説の題名にも掲げられている通り「七つのトリック」が摂取できるお得なミステリです。
ひとつの事件についてああだこうだ頭を捻るのではなく、一問一答形式に近い形でサクサクと進んでいくため中だるみもありません。
トリックそのものは目新しさこそありませんが、既存のバリエーションとして良く出来ているものばかり。
「えー、そんなのあり?」と、思わずツッコミを入れたくなる真相もなくはありませんが、そういうところも含めて本作の魅力なのだと思います。
確かに、粗探しをすればそれなりに綻びを見つけられる作品ではあるかもしれません。
ですが、機械(物理)トリックが好きな方が加点方式で鑑賞すれば、きっと素晴らしい読書体験になるはずですよ。
追記①この小説が好きな方にオススメ
有栖川有栖の密室大図鑑
古今東西の小説に登場する"密室"がイラストで可視化されています。
"読んでよし"、"眺めてよし"な一冊です。
ブックガイドとしても利用できます。
哲学者の密室
著者は笠井潔。
こちらの作品も"密室"ものであり、物理的に"厚い"です。
友達以上探偵未満
著者は麻耶雄嵩。
ライトな雰囲気に反して、ガチガチの本格ミステリです。
"読者への挑戦状"も2つ付いています。
怪奇探偵・写楽炎1 蛇人間
作者は根本尚。
ものすごく丁寧に作られた本格ミステリ漫画です。
怪人と呼ばれる血も涙ない連中が大暴れします。
監禁探偵
他媒体に映画・小説もありますが、漫画(全2巻)が初出です。
登場人物のイカレっぷりを重視している方向け。