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時代を超越して現れる謎の男【密室蒐集家】

~"密室蒐集家"の存在が最大のミステリ~

大山誠一郎『密室蒐集家』文藝春秋

 

 

 

 

収録作品とあらすじ

1.「柳の園」(1937年)
夜中の学校に忍び込んだ生徒が、音楽室で誰か襲われる場面を目撃する。
しかし、密室となっていた音楽室には被害者以外の姿はなく……

 

※追記:単行本と文庫本で少し内容が異なります。
単行本ではトリックに"問題点"がありましたが、文庫本ではそれを補うような改訂が施されているそうです。

 


2.「少年と少女の密室」(1953年)

高校生の男女が東京郊外の住宅で刺殺されていた。
問題の住宅は刑事たちが張り込みをしており"視線の密室"となっていたはずだが……

 


3.「死者はなぜ落ちる」(1965年)
とある画家の部屋をかつての恋人が訪れた。
偶然にも2人は上階の部屋から落下する女性を目撃するが、捜査の過程で不審な点が多く浮かび上がり……

 


4.理由ありの密室(1985年)
東京都北区にあるマンションで他殺死体が発見された。
事件を通報したのはどうやら犯人らしいが、なぜ通報したのか、なぜ密室を構築したのかが不可解で……

 


5.「佳也子の屋根に雪ふりつむ」(2001年)
自殺を図って昏睡していた佳也子という女性は、面識のない医師に介抱され意識を取り戻す。
しかし、彼女が眠っている間に医師が殺害されており、刑事にも疑われ……


主要登場人物

密室蒐集家
昭和初期から平成まで、時代を超越して現れる謎の存在。
"密室殺人"が起きると姿を現し、事件が解決すると煙のように消える。
その正体はまさかの……!?

 

鮎田 千鶴(あゆた ちづる)
「柳の園」で主役を務める女生徒。
わけあって夜中の学校に忍び込む。

 

柏木 英治(かしわぎ えいじ)
「少年と少女の密室」で主役を務める刑事。
情に厚く、被害者に肩入れする性質。

 

伊部 優子(いべ ゆうこ)
「死者はなぜ落ちる」で主役を務める画家。
近々結婚をする予定がある。

 

水原 涼子(みずはら りょうこ)
「理由ありの密室」で主役を務める刑事。
クレーム・ブリュレが好き。

 

笹野 佳也子(ささの かやこ)
「佳也子の屋根に雪ふりつむ」で主役を務める女性。
自殺を図って昏睡していたところ、とある医師に介抱される。

 

特徴

時代を超えて現れる"密室蒐集家"を探偵役に据えた連作短編集です。

 

推理に不要な要素はとことん削ぎ落とされており、純粋に"謎"と"解決"が楽しめる作品が並んでいます。

 

そのストイックさに、重厚なストーリーや登場人物の会話劇を楽しみたい方は辟易するかもしれません。

 

当然、作品内で扱われる事件はすべて"密室"(広義の密室を含む。)が絡むものです。

 

この小説に向いている人

・"密室"が好き。
・ロジックを重視している。
・ある程度ミステリに読み慣れている。

 

この小説に向いていない人

・重厚なストーリーを期待している。
・ウィットに富んだ会話劇などを求めている。
・"偶然"を犯行に組み込んだ事件は読みたくない。

 

まとめ

"密室"と"謎を解く過程"が好きな方にはたまらない作品です。

 

特に本作品は解決の糸口が意外なところから見つけられたりするので、それなりに目の肥えた方々も満足する仕上がりになっていると思います。

 

ところで本作品の最後のページですが、読んだあと思わず脱力してしまいましたね。

 

嘘でも誇張でもなく、顎を落としたまましばらく動けませんでした。

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

アリバイ崩し承ります

同著者の作品。
こちらはアリバイ崩しに特化した連作短編集です。

 

 

 

密室キングダム

作者は柄刀一
都合5つもの"密室"が登場します。
1200ページを超える大長編です。

 

 

密室黄金時代の殺人

作者は鴨崎暖炉。
都合6つもの"密室"が登場します。
雰囲気もキャラクターも全体的にライトな味わいです。

犯人限定のロジックはあまり重視されていません。