~編集者にヒロインを消されかけた本格ミステリ~
鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』宝島社
あらすじ
「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」との判例により、現場が密室である限りは無罪であることが担保された日本では、密室殺人事件が激増していた。
そんななか著名なミステリー作家が遺したホテル「雪白館」で、密室殺人が起きた。館に通じる唯一の橋が落とされ、孤立した状況で凶行が繰り返される。
現場はいずれも密室、死体の傍らには奇妙なトランプが残されていて――。
引用元:宝島チャンネル
(https://tkj.jp/book/?cd=TD026460)
ヒロインが"イエティ"を探しに
訪れたホテルで
密室殺人が連続する
主要登場人物
葛白 香澄(くずしろ かすみ)
語り手。ほとんどの場面で視点人物。
探岡 エイジ(さぐりおか えいじ)
探偵。
事件の謎解きは得意だが、恋の謎解きは不得意。
蜜村 漆璃(みつむら しつり)
香澄の中学時代の同級生。
当時は文芸部に所属していた。
フェンリル・アリスハザード
福岡在住のイギリス人。
日本語が達者。
長谷見 梨々亜(はせみ りりあ)
国民的女優。中学生。
真似井 敏郎(まねい としろう)
梨々亜のマネージャー。
社 晴樹(やしろ はるき)
貿易会社の社長。
自身の学歴を誇っている。
朝比奈 夜月(あさひな よづき)
作者の推しキャラ。"イエティ"を探している。
編集者に存在を消されかけた逸話がある。
特徴
舞台は架空の日本。"密室の謎が解明されなければ無罪"という裁判所がトンデモな判決を下したせいで、空前絶後の密室殺人ブームが到来してしまいました。
挙句の果てには、
密室使い
密室を駆使して殺人を犯す暗殺者
密室鑑定業者
空間が密室であることを保証する団体
密室探偵
密室殺人専門の探偵
などと密室にか関わる職業が激増する始末。
そんなトンデモナイ世相のなか、高校生の葛白香澄が密室と向き合う物語が始まります。
あと、作者公認のヒロインである朝比奈夜月のイエティを探す物語も幕を開けます。
※イエティのイメージ画像。
出典:TURBOSQID
(https://www.turbosquid.com/ja/3d-models/big-foot---sasquatch-3d-model-1369707)
この小説に向いている人
・密室が好き。
・機械(物理)トリックが好き。
・事件現場やトリックの図解が好き。
・コミカルなキャラクターが好き。
・ライトな会話劇が好き。
この小説に向いていない人
・洗練された文章表現を求めている。
・犯人の動機を重視している。
・トリックの再現性を重視している。
・コミカルなキャラクターが苦手。
・オカルト要素(イエティ等)を過大に期待している。
まとめ
密室トリックを大量に摂取できるお得な作品であると同時に、かなり読者を選ぶ作品でもあります。
なかでも犯人にしっかりとした動機を期待している方や、クローズド・サークルという状況に緊迫感を求めている方はこの作品には向かないかもしれません。
概して密室以外の要素が希薄なため、それ以外に期待すると肩透かしを食うというわけです。
一点特化の尖った作品ではありますが、特に「密室トリックが好き」という方は楽しめる作品だと思います。
追記①この小説が好きな方にオススメ
密室狂乱時代の殺人
続編です。
密室入門
対談形式で読みやすい! 図解も豊富!
先にこれを読んだほうが楽しめるのでは? とも思います。
七つの棺―密室殺人が多すぎる
先駆的作品です。作者は折原一。
黒星警部シリーズの短編集。
密室蒐集家
先駆的作品です。作者は大山誠一郎。
第13回本格ミステリ大賞。
マツリカ・マトリョシカ
作者は相沢沙呼。
殺人事件が起きない"密室"を扱う長編です。
密室キングダム
作者は柄刀一。ペンネームの由来は"カー"。
都合5つもの"密室"が登場します。
1200ページを超える大長編です。
追記②この小説が好きな方にオススメ(上級者向け)
天城一の密室犯罪学教程
作者の天城一は本物の数学者です。
"時間Tについて、殺人の時刻をR、推定犯行時刻をS、被害者の絶命時刻をQと置いて……"
みたいな記述に耐えられる人だけがこの本を読みましょう。