~某コピペの元ネタと出会える連作短編集~
法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』講談社
収録作品とあらすじ
1.「死刑囚パズル」
死刑執行直前に、死刑囚が毒殺された。まもなく命を失う男はなぜ殺される必要があったのか……
2.「黒衣の家」
ある老人の葬式が行われ、それから四十九日も過ぎないうちに今度はその妻が毒殺された。アリバイがない人物がひとりだけいるが……
3.「カニバリズム小論」
警官隊がアパートに踏み込んだとき、居住者の男はある"動物"の肉を調理しているところで……
4.「切り裂き魔」
図書館の棚で往年の"本格推理小説"が見るも無残な姿で発見され……
5.「緑の扉は危険」
図書館への蔵書寄贈を希望した資産家が、首を吊って亡くなった。しかし、遺族である資産家の妻が蔵書寄贈を強く拒否し……
6.「土曜日の本」
「五十円玉二十枚の謎」の短編執筆に苦吟する綸太郎は、図書館に赴き……
7.「過ぎにし薔薇は……」
図書館に不審な行動を示す女性がいた。彼女は一見アトランダムに本を物色しているようだが……
主要登場人物
法月綸太郎(のりづき りんたろう)
日々締め切りと格闘する推理小説家。長身でこざっぱりとした感じの青年。
捜査一課からたびたび(非公式に)協力を求められている。
父親である貞雄には敬語を使って話す。
法月貞雄(のりづき さだお)
警視庁捜査一課の警視。綸太郎の父親。
捜査が難航するたび息子を現場に招聘するが、職場では黙認されている。
沢田 穂波(さわだ ほなみ)
区立図書館の司書を務める女性。
色白で大きな黒縁眼鏡をかけているが、プライベートではコンタクト。
綸太郎を言葉巧みに操り、面倒な仕事を手伝わせたりする。
特徴
堂々たるエラリー・クイーンへのリスペクト。
作者と同名のキャラクター"法月綸太郎"が登場する短編集です。俗に"図書館シリーズ"と呼ばれる作品群が初めて収録された本でもあります。
収録されている「死刑囚パズル」は、界隈でもたびたび言及される怪作です。
“死刑執行直前の殺害”という心がざわつくような謎はもとより、著者が尊敬するエラリー・クイーンさながらの鋭いロジックには痺れるのひとこと。
この作品の原形は学生時代にを書き上げた習作だというのだから、法月綸太郎という作家には仰天しますよ、ほんと。
この小説に向いている人
・動機を重視している。
・ロジックを重視している。
・法月父子が好き。
この小説に向いていない人
・視覚的に派手なトリックを求めている。
・重厚なストーリーを期待している。
まとめ
ガチガチのパズラーからライトなものまで、収録されている作品はかなりバラエティに富んでいます。
ホワイダニットに注目されがちな本作ですが、犯人限定のロジックも見ものです。
ちなみに某所のコピペで有名なのは「黒衣の家」ですね。コピペのほうはサイコパス(ネタバレ防止のため反転)と関連づけて面白がられていますので、もしかすると目にしたことがある人も多いのでは。派生形もたくさんあるようです。
もっともこのネタは、大昔の作品である「〇〇屋〇七」や連城三紀彦の「〇〇〇宿」が先駆けでしょう。
後発ですが、城平京の『〇〇〇〇〇〇〇』にも同じネタがあります。
動機が〇〇〇〇〇〇はもはやパブリックドメイン的なアイデアなのかもしれません。
まあミステリは"オマージュの文学"なので、その作品がどの先行作の影響を受けているのか議論する楽しさもありますね!
※ネタバレ防止のため伏字対応しました。
追記①この小説が好きな方にオススメ
雪密室
同著者の小説。
キャラクターとしての法月綸太郎が初登場する作品でもあります。
死と砂時計
「死刑囚パズル」をリスペクトした短編が収録されています。
また、鳥飼否宇は「死刑囚パズルをかなり意識して書いた」とも語っています。
第16回本格ミステリ大賞。
当ブログでの紹介記事はこちら。
刀と傘
明治時代の監獄舎で囚人が殺害される短編が収録されています。
第19回本格ミステリ大賞。
虹果て村の秘密
作者は有栖川有栖。ジュブナイルミステリです。
ミステリの面白さはトリックだけではないと教えてくれる聖典です。