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【読者への挑戦状】女子高生コンビが躍動する本格ミステリ【友達以上探偵未満】

~忍者と芭蕉の里を舞台にした連作短編集~

麻耶雄嵩『友達以上探偵未満』KADOKAWA

 

 

 

 

 

 

あらすじと収録作品

【あらすじ】

 

忍者と芭蕉の故郷、三重県伊賀市の高校に通う伊賀ももと上野あおは、地元の謎解きイベントで殺人事件に巻き込まれる。

探偵好きの二人は、ももの直観力とあおの論理力を生かし事件を推理していくが!?

 

引用元:KADOKAWAオフィシャルサイト

(https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000493/)

 

【収録作品】

1.「伊賀の里殺人事件」
放送部の部長に"伊賀の里ミステリーツアー"の取材を命じられた桃青コンビ

ところが赴いた先で殺人事件が起こり……


※主役のふたり、”もも”と”あお”のこと。

 


2.「夢うつつ殺人事件」
桃青コンビが通う高校で殺人事件が起きた。

犯行前、怪談話に見立てた殺人計画を聞いたという生徒がいて……

 

 

3.「夏の合宿殺人事件」

あおがももの在籍する中学校に転向してきた頃のお話。

文芸部の合宿先である宿泊施設で殺人事件が起こり……

 

 

主要登場人物

伊賀 もも(いが もも)
探偵志望。絵に描いたような天真爛漫(てんしんらんまん)

ミステリは好きだが、本はあまり読まないドラマは派。

その家系は忍者の末裔ともいわれている。

 

上野 あお(うえの あお)
探偵志望。クールでやや無口。

頭を整理しているとき、口を右手で覆う癖がある。

勤務医の父親とふたり暮らし。

 

伊賀 空(いが そら)
ももの兄。伊賀署の刑事。

長身のさわやかなイケメン。

ももとあおの活躍はほとんど彼の手柄になっている。

 

猪田 道夫(いだ みちお)

自らを松尾芭蕉の子孫であると主張してやまない風変わりな男性。

現在は「ネオ芭蕉」と名乗り、季語を無視した俳句を続々と発表している。

『闇パセリ 無限の輪廻の 継承者』は彼の代名詞的力作。

 

相生 初唯(あいおい うい)

美術部の一年生。

雑木が風にそよぐ音やフナが水面で跳ねる音にすら、びくびく反応する臆病な性格。

ひょんなことから、とある生徒の殺人計画を聞いたと証言する。

 

特徴

"読者への挑戦状"が2つも付いています。


舞台となっている上野市(現在の伊賀市)は、作者の郷里でもあるとのこと。


作品に漂う空気はライトで地の文で使われるレトリックもいま風なものの、さすがにベテランとあって文章表現は垢抜けています。肝心の"謎と解決"もよく練られており、真相を知ってからもう一度読み返したくなる魅力がありますね

 

一方で、良くも悪くも他の麻耶作品に比べて刺激に欠けるのも事実。しかし、だからこそナウなヤングには非常に勧めやすい王道なミステリと言えるでしょう。

 

そして、いったんそのように捉えてしまえば、ライトな文体も俄然重要な意味を帯びてきます

 

 

 

 

「君たちに頼みたいことがある」

カーテンを閉め切った放送部のミキサー室。薄暗い中、机に両肘をつき顔の前で手を組み合わせた部長が云った。

「なんですか、部長」

いつもと違う真剣なトーンに、伊賀ももはは警戒しながら尋ねる。黒縁メガネの奥が蛍光灯の反射でよく見えないのが、怪しさに輪をかけている。部長がこんな態度をとるときは、決まって説教だ。

 

引用元:(『友達以上探偵未満』、2020年、講談社)

 

 

 

上記は小説の冒頭部分です。

 

のっけから会話文が挿入され、次いで「カーテンを閉め切った放送部のミキサー室」と体言止めで場面の説明がされています。

(小説で体言止めを見るたび蕁麻疹が出てしまう読者がいるらしいですが、令和の若者にそんな人種はほとんどいないはず)

 

どうでしょう? 小説世界の映像的な状況がすぐに頭に入ってくるとは思いませんか?

 

続きを見ると、『なんですか、部長』といま風の口のきき方をするももがいて、「真剣なトーン」と横文字を交えて口語的表現が綴られています。

 

これも、若者目線での読みやすさに一役買っている部分です。

 

あとはよくある小説的な技巧で「黒縁メガネの奥が蛍光灯の反射でよく見えないのが、怪しさに輪をかけている。」と放送部部長の外見描写をももの視線に落とし込み、「部長がこんな態度をとるときは、決まって説教だ。」とそのままももの心理描写に着地させています

 

さすがは麻耶御大と唸らせる出来だと思いませんか!?

 

追記:上記の引用からも片鱗が窺えますが、この小説は全編を通して一文が短い傾向にあります。おそらくこれも、活字が苦手な方でも文章につまずくことがないよう配慮の結果でしょう。

 

この小説に向いている人

いわゆる"読者への挑戦状"が好き。
・ロジックを重視している。
・ライトな筆致の物語が好き。
・小説の読みやすさを重視している。

 

この小説に向いていない人

・派手な機械(物理)トリックを期待している。
・学生が主役の物語に興味がない。

コミカルなキャラクターが苦手。

・偶然の作用が大きいミステリは苦手。

 

まとめ

ライトな雰囲気に騙されないで!


中身はガチガチの本格ミステリです。しかも"読者への挑戦状"が2つも付いてます!


この作者の作品にしては比較的素直なミステリなので、麻耶雄嵩入門にもどうぞ!

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

貴族探偵

連作短編集です。
これもまた、麻耶雄嵩の作品にしては素直なほうです。
"貴族探偵"が執事やメイドを使役して、数々の難事件を解決させます

長編です。
例によって、麻耶雄嵩の作品にしては読みやすいほうです。
クローズド・サークルでもあります!

Another

作者は綾辻行人。文庫は上下巻構成。

『友達以上探偵未満』の文中に『危ない。危ない。アナザーなら死ん……』というセリフがあります。

 

 

地獄の奇術師

作者は二階堂黎人

名探偵・二階堂蘭子がまだ女子高生だった頃の物語です。

 

怪奇探偵・写楽炎

作者は根本尚

女子中学生(大人びて見えますが)が探偵役として活躍するミステリ漫画です。

知名度は低めですが、ガチガチの本格ミステリです。

 

春期限定いちごタルト事件

著者は米澤穂信。

謎過ぎる関係の男女コンビが活躍する日常ミステリです。

 

 

 

虹果て村の秘密

作者は有栖川有栖。いわゆるジュブナイルミステリ

ステリの面白さはトリックだけではないと教えてくれる聖典です。