~四つの短編と四つの作中作~
陸秋槎(稲村文吾・訳)『文学少女対数学少女』早川書房
あらすじと収録作品
【あらすじ】
高校2年生の“文学少女”陸秋槎は自作の推理小説をきっかけに、孤高の天才“数学少女”韓采蘆と出逢う。彼女は作者の陸さえ予想だにしない真相を導き出して……“犯人当て”をめぐる論理の探求「連続体仮説」、数学史上最大の難問を小説化してしまう「フェルマー最後の事件」のほか、ふたりが出逢う様々な謎とともに新たな作中作が提示されていく全4篇の連作集。華文青春本格ミステリの新たなる傑作!
引用元:早川書房オフィシャルサイト
(https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000613082/)
【収録作品】
1.「連続体仮説」
2.「フェルマー最後の事件」
3.「不動点定理」
4.「グランディ級数」
主要登場人物
陸 秋槎(りく しゅうさ)
推理小説好きの女子高生。校内誌の編集長。
本作品の語り手。
韓 采蘆(かん さいろ)
数学の天才。秋槎と同学年。
国際的な数学の大会での功績を理由に、多数の規律違反を黙認されている。
陳 姝琳(ちん しゅりん)
秋槎のルームメイト。
上記のふたりが接触するきっかけを作った張本人。
特徴
作者と同名の語り手(陸秋槎)が登場する連作短編集。いわゆる華文ミステリですが、作者は日本の金沢に住んでいるそうな*1。
本作の特色は、四つの短編それぞれに“作中作”が挿入されている点にあります。
たとえば第一作「連続体仮説」は、語り手・陸秋槎が執筆した犯人あて小説(作中作)を、韓采蘆が別解がないか検証するという筋立てになっています。
全編を通じて、作中作をもとに議論を重ねていく構成ではありますが――それだけでは終わらないのが本作品の面白いところ。
ミステリとしては、後期クイーン的問題を明示的に扱っている点に特徴があるといえます。
数学とか後期クイーン的問題とか、一見すると小難しそうで読者を選ぶように思えますが、意外にも予備知識は必要ありません。
仮に重度の数学アレルギーを患っていたとしても、数学パートを「まあ、そういうものか」と軽く読み流せば、特に苦になることはないでしょう。
実際、私も「グランディ級数」について、スターバックスコーヒーの飲料のサイズを想像した耳にしたこともないほどでしたが、問題なく楽しめました。
要するに、構えず読めて、しっかり楽しめる。よくできた連作短編集です!
この小説に向いている人
・ロジックを重視している。
・高校生が主役の物語が好き。
この小説に向いていない人
・文学(ミステリ以外)のうんちくを期待している。
・百合っぽい描写は苦手。
※著者は百合の文脈で語られる作家でもありますが、少なくとも本作については、百合を理由に読むのを避けるのはもったいないかもしれません。巻末の解説にも「百合は控えめ」とあります。
まとめ
ライトな装いながら、その実、マニアが好みそうなテーマを扱った連作短編集です。
それでいて、ミステリの面白さの一側面を、驚くほど明快に言語化してみせる。ある意味、とても親切な作品といえるでしょう。
本書は翻訳作品であり、巻末には麻耶雄嵩による解説も付いています。
余談ですが、本作品のタイトルは麻耶雄嵩『貴族探偵対女探偵』へのオマージュらしいです。
*1:陸秋槎@luqiucha-X
(https://x.com/luqiucha、2025年9月2日最終閲覧。)

