~高校生作家が事件介入に猪突猛進~
倉知淳『ドッペルゲンガーの銃』文藝春秋
あらすじと収録作品
【あらすじ】
女子高生ミステリ作家(の卵)灯里は、小説のネタを探すため、警視監である父と、キャリア刑事である兄の威光を使って事件現場に潜入する。
彼女が遭遇した奇妙奇天烈な三つの事件とは――?
引用元:これぞ本格ド直球ミステリ!『ドッペルゲンガーの銃』倉知淳 | 単行本 - 文藝春秋
(https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163908960)
【収録作品】
1.「文豪の蔵」
2.「ドッペルゲンガーの銃」
3.「翼の生えた殺意」
主要登場人物
水折 灯里(みずおり あかり)
現役女子高校生にして作家。
作品づくりに行き詰まり、現実の事件からインスピレーションを得ようとする。
将来の夢は「残虐死体が登場する物語」を綴ること。
水折 大介(みずおり だいすけ)
警視庁捜査一課の刑事。灯里の兄。
子供の頃から学業だけは得意だった。
灯里には「兄」(あに)と呼ばれている。
佐田山(さだやま)
ミステリ界ではよく知られた名物編集者。
銀縁眼鏡とバケットハットがトレードマーク。
業界では「サディスティック・佐田山」の異名で恐れられている。
特徴
倉知淳による連作短編(中編)集です。
南京錠がかけられた土蔵に現れた他殺体の謎を描いた「文豪の蔵」、二地点で同時に犯行を行う“分身した殺人者”を追う「ドッペルゲンガーの銃」、空中を飛翔したと思しき殺人者を追う「翼の生えた殺意」——表題作を含め、本書にはこれら3編が収録されています。
蔵と〇〇〇。この二語が揃った時点で、ある種の読者は犯人の手口を連想するかもしれません。そのくらい既視感の強いトリックのバリエーションではありますが、「文豪の蔵」を筆頭に、その“どこかで見た”という感覚を逆手に取るように、変奏の部分には工夫が凝らされています。
各編とも"不可能犯罪"という王道の枠組みで、奇をてらうことのない、堅実なロジックも見どころのひとつです。ベテランらしい筆致の、ミステリ的にはバランスのいい一作といえるでしょう。
もっとも物語性に乏しい点は、読者によっては物足りなさを覚える要素になり得るかもしれません。しかし裏を返せば、余計な装飾を排し謎とその解明に専心した構成であるともいえます。
総じて、派手さを競うような演出や過密な情感描写に辟易している読者にとっては、まさに本作は打って付けのミステリです。
この小説に向いている人
・不可能犯罪ものを読みたい。
・ミステリに関係ない文章は少ないほうがいい。
この小説に向いていない人
・重厚なストーリーを期待している。
・派手なトリックを求めている。
まとめ
倉知淳による、不可能犯罪をテーマに据えた連作短編集です。
主役は、作品づくりに行き詰まり、現実の事件からネタを得ようとする女子高生作家の灯里。物語展開に劇的なうねりはありませんが、そのぶん、軽快な会話の応酬が文章全体にほどよいリズム感を添えています。
物語性には乏しいものの、それゆえに謎解きの純度が高く、演出過多な作品に疲れた読者には好適な一冊といえるでしょう。
※北極まぐによる可愛らしい装画が印象的ですが、日常の謎(日常ミステリ)ではありません。ここまで語って勘違いする方はほとんどいないと思いますが、念のため。