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解決不可能?叙述トリック?ミステリの可能性を極限まで追求した傑作【ミステリー・アリーナ】

~紅白歌合戦は打ち切りへ。代わって放映されるのは~
深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』講談社

 

 

あらすじ

 

連続殺人に挑むのはミステリー読みのプロたち――。15ある解決案のどれが真相か? 嵐で孤立した館で起きた殺人事件! 国民的娯楽番組「推理闘技場」(ミステリー・アリーナ)」に出演したミステリー読みのプロたちが、早い者勝ちで謎解きに挑む。誰もが怪しく思える伏線に満ちた難題の答えはなんと15通り! そして番組の裏でも不穏な動きが……。多重解決の究極 にしてミステリー・ランキングを席巻した怒濤の傑作!!


引用元:講談社BOOK倶楽部
(https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000276032)

 

忙しい方向け(三行)

推理闘技場で
賞金20億円をめぐり
早い者勝ちの犯人当てクイズ

 

番組パートの主要登場人物

樺山 桃太郎(かばやま ももたろう)
国民的娯楽番組《推理闘技場》(ミステリー・アリーナ)の司会者。
紅白歌合戦を『数で勝負みたいな音痴のアイドルグループや、声もロクに出ないおじさんおばさん歌手たちが歌う』と斬って捨てる、デンジャラスな人物。

 

モンテレオーネ怜華(もんてれおーねれいか)
国民的娯楽番組《推理闘技場》(ミステリー・アリーナ)のアシスタント。イタリア育ち。
『漢字はまだまだ難しくてぇ……全部にふりがなが打ってあるから読めるだけですぅ』
などと急に舌っ足らずな喋り方をすることがある。

 

一ノ瀬(いちのせ)

三十代と思しき男性。最初の解答者。
短髪に太い眉、がっしりとした顎のスポーツマンタイプ。
『もしも全く同じ解答だったら、少しでも早く答えた人の勝ちになるんでしょう?』
と発言し、問題文(小説)の冒頭が読み上げられた時点で犯人とトリックを解答する。

 

二谷(にたに)
お下げ髪の少女。二番目の解答者。
化粧っけはまるでなく、今回のクイズで最年少と目されている。
『犯人は、××さんでーす♡』
答えながら両手の指でハートを形作るような性格の持ち主。

 

三澤(みさわ)
線の細い神経質そうな男性。銀縁の眼鏡をかけている。
『はっはっは。聞いて愕くな』
外見とは裏腹に、不遜な態度で解答を口にする。

 

四日市(よっかいち)
小太りな男性。髪が薄くなりかけている。
『おい、司会者!』
と呼びかけ、敢えて解答ボタンを押さずに解答を告げる。

 

五所川原(ごしょがわら)
よく日焼けしたガテン系の男性。胸板も厚いが、腹まわりも厚い。
『頭湧いてんのか』
と司会者に楯突くなど、口が悪いところがある。

 

六畝割(ろくせわり)
虫ピンのように細長い男性。スリムというより貧相な痩せ方。
『もう言っていいの? 俺、当てちゃうよ?』
三澤と同様、外見とは裏腹に不遜な態度で解答を口にする。

 

七尾(ななお)
彫りの深い、浅黒い顔をした男性。ホストでもやれば人気が出そうな容貌の持ち主。
『びっくりして腰抜かすなよ』
などと前置き、作中でも屈指の珍説を披露する。

 

八反果(はったんか)
艶やかな黒髪の女性。肉感的なプロモーションの持ち主。
『だ・か・ら、偽装されていたのは××××の方だったの』
発言、行動ともにセクシーなところがある人物。

 

九鬼(くき)
サングラスをつけた男性。低くしわがれた声の持ち主。
『ああ。正しい解は常に美しいものさ』
自分の解答の美しさに酔っているかのような言動が見受けられる。

 

 

"名前から解答の順番がわかる"という作者の遊び心が窺えます。9人目以降も解答者が続出し、珍説・トンデモ説が飛び出し……
詳細はぜひ実際に本を手に取って確かめてみてください。

 

 

問題パート(作中作)の登場人物等

鞠子(まりこ) 
別荘の持ち主。

 

平 三郎(たいら さぶろう)
生物。

 

ヒデ
通称「気配りのヒデ」。

 

丸茂(まるも)
愛車はボルボ。

 

沙耶加(さやか)
整った顔をしている。

 

たま
神出鬼没の存在。


※謎解き部分のネタバレ防止のため、プロフィールの詳細は割愛。手抜きではなく、本当にこれしか書けないのです。

 

特徴

犯人当てを早押しクイズ形式で実現した衝撃のミステリです。

 

物語の構造は、

 

――――――――――――――――――――――――
①問題パートで作中作を読む(途中まで)

 

②番組パートに切り替わり、登場人物が犯人とトリックを解答する。

 

③問題パートで作中作の続きを読む(途中まで)

 

④番組パートに切り替わり、登場人物が犯人とトリックを解答する。

 

以降、③と④の繰り返し
――――――――――――――――――――――――

 

という形になっています。

 

解答はひとりにつき1回のみ許されており、解答を終えた参加者は「解答済みブース」へ移動し、作中作が読み終えられるまで待機することになります。

 

正解は作中作が最後まで読み終わるまで発表されず、あとの解答者が同じ犯人とトリックを指摘して正解となった場合には、先着者に賞金20億円が支払われることになっているそうです。(あとの人が同じ解答をするメリットはないですね)

 

こんなふうに書くとお堅いミステリであるかのような印象を与えかねませんが、実際は軽妙洒脱な掛け合いが楽しめる、非常にユーモラスな作品です。

 

番組パートの冒頭を読めばおおよその雰囲気をつかめると思いますので、以下に引用しますね。

 

 

 

 

「さあさあさあ、今年もやって来ました! 年に一度のお楽しみ、大晦日の夜恒例の、国民的娯楽番組《推理闘技場》! 貧富の差が拡大し、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなった二十一世紀中葉のこの日本、人々が人生の一発大逆転を狙ってチャレンジするこの超人気番組も、今回で記念すべき第十回を迎えます! 総合司会の樺山桃太郎です」
「何でもこの番組が誕生する以前は、大晦日の定番番組と言えば、歌手たちが男と女に分かれて、紅勝て白勝てとか言っている番組だったそうですが、今考えると笑っちゃいますよね。アシスタントのモンテレオーネ怜華です」
「全くです。数で勝負みたいな音痴のアイドルグループや、声もロクに出ないおじさんおばさん歌手たちが歌うのを聞いて、一体何が楽しかったんでしょうね!」
「まあまあ樺山さん、もう終わった番組の批判はそれくらいにして」
「怜華ちゃんがはじめたんじゃない」
「あたしは台本通りに喋っただけですよぉ」
「それはそうと、今年のミステリー・アリーナは第十回の記念として、特にミステリーヲタ大会と銘打ちまして、我こそはミステリーヲタクという濃ゆ~い解答者に集まってもらっています!」
「ミステリーヲタですかぁ……。この番組で出題される問題は、毎回難問で知られていますが、今回は特に歯ごたえのある超難問の出題が予想されますねぇ!」

 

引用元:(『ミステリー・アリーナ』、2018年、講談社)

 

 


上記の通り番組パートはのっけから怒涛の会話文で構成されています。基本的にこのスタイルが継続されるので、この点は好き嫌いが分かれるかもしれません。ブラック・ユーモアが受け付けない方もいるでしょう。また、ひたすら問題を読み解答を繰り返すという流れが続くので、込み入ったストーリーは皆無です

 

総じてミステリの"謎と解決"が好きな方、少々不謹慎なジョークが好きな方は楽しめる作品だと言えます

 

※加筆修正されている文庫版を読むことを推奨します。

 

 

この小説に向いている人

多重解決が好き。
・ある程度ミステリに読み慣れている。
・ブラックユーモアに抵抗がない。

 

この小説に向いていない人

・重厚なストーリーを期待している。
・コミカルなキャラクターが苦手。
不謹慎な表現は許せない。

 

まとめ

紅白歌合戦が打ち切りになり、代わって《推理闘技場》(ミステリー・アリーナ)が年末特番になった日本の物語です。

 

早押しクイズ形式とはいえ、次々と推理が覆されていく流れは『毒入りチョコレート事件』を彷彿させますが、当然のこと着地点は異なります。

 

ただし、早押しクイズ形式で多数の解答(推理)が示されるという作品の都合上、過去の様々な小説で使われてきたトリックが割れてしまうという懸念があります

 

ミステリに読み慣れていない方は、読むのを後回しにするのもひとつの方法かもしれません。

 

以下ネタバレ感想のため反転
すごく挑戦的な作品だと思います。
バカミスのひとことで片づける向きもあるようですが、番組の仕組み自体をひとつのトリックと考えてみてください。
解決されそうになると、真実の姿を変容させるトリックといいますか……
とにかく、見方が少し変わるかもしれません。

 

 

 

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

犯人選挙

同著者の作品。

読者が犯人を決めるという試みに挑戦した怪作です。

 

 

 

 

虚構推理

作者は城平京

多重解決を非常に巧く物語に落とし込んだ作品です。

 

監禁探偵

他媒体に映画・小説もありますが、漫画(全2巻)が初出です。

登場人物のイカレっぷりを重視している方向け。