本格ミステリ紹介所

――面白い本格ミステリを紹介する場所――

西澤保彦の猟奇パズル・連続首なし事件【解体諸因】

~人体切断に特化したミステリ短編集~

西澤保彦『解体諸因』講談社

 

 

収録作品とあらすじ

1.「第一因 解体迅速」
匠千暁(タック)彼はがらんどうしとした部屋のなか、新聞を熱心に読んでいた。
記事の内容はバラバラ殺人事件。被害者は裸に剝かれた上に、首、胴体、そして両手足の六パーツに解体されていて……


2.「第二因 解体信条」
納屋のなかで黒いビニール製のごみ袋が3つ見つかった。
野良犬が集まって盛んに騒ぎたてるため中身をあらためると、都合三十四個ものパーツに分解された死体が見つかり……


3.「第三因 解体昇降」
マンションの八階からエレベーターにひとりで乗った女性が、一階に到着してみると死体になっていた。
しかも全裸に剥かれたうえ、首と左手足が切断されており……


4.「第四因 解体譲渡」
マンションのゴミ集積所で、数個のゴミ袋に分散した若い女性のバラバラ死体が発見された。
逮捕された男はそのマンションの住人であり、死体を自室のバスルームで分解したらしいが……


5.「第五因 解体守護」
高瀬千帆(タカチ)は家庭教師としてのバイト先で、ぬいぐるみの左腕が"切断"される事件が起きた。
あまつさえ、切り口には血塗られたハンカチが巻かれており……


6.「第六因 解体出途」
娘と婚約者を別れさせるよう叔母に頼み込まれるタック。どうやら叔母は娘の婚約者と肉体関係にあるらしい。
乱暴な理屈に説き伏せられたタックはしぶしぶ婚約者のマンションを訪れるも、室内は血まみれの空間と化していて……


7.「第七因 解体肖像」
広告ポスターに対する悪質ないたずらが頻発していた。
その手口はモデルの女の子の写真のうち、顔の部分だけ切り抜くというものであり……


8.「第八因 解体照応 推理劇『スライド殺人事件』」
女性ばかりが狙われ、首を切断されるという猟奇的な事件が連続していた。
しかも、第一の被害者の首は第二の被害者の胴体とガッチャンコされており……


9.「最終因 解体順路」

※ネタバレ防止のため割愛。

 

主要登場人物

匠 千暁(たくみ ちあき)

愛称はタック。
「本を読んでいるか酒を飲んでいるところしか見たことがない」と評されるほどの読書家であり、飲兵衛でもある。

 

高瀬 千帆(たかせ ちほ)

愛称はタカチ。
身長は180cm近くあり、手脚はすらりと細長く、モデルのようなプロモーションをしている。

 

辺見 祐輔(へんみ ゆうすけ)

愛称はボアン先輩。

安槻大学在学中は留年や休学を繰り返していたため「安槻大学の牢名主」などとも呼ばれていた。

 

中越 正一(なかごし しょういち)

安槻署の警部。まだ二十代であるにもかかわらず、額が後退している苦労人。
大学を首席で卒業しており、将来を嘱望されている。

 

特徴

西澤保彦のデビュー作収録されている短編すべてに広い意味での人体切断が関係しています

 

匠千暁シリーズの主役である、タック、タカチ、ボアン先輩が初登場する作品でもあります(ウサコは登場しません)

 

古今東西を通じて人体切断を扱ったミステリは珍しくありませんが、連作短編集という形式でそればかりを集めた作品はほかに例を……少なくとも私は知りません。

 

全編を通して定まった探偵役がいるわけではなく、例えばタックが登場しない場合には中越警部が探偵役を務めたりします。

 

一見それぞれ独立した短編のようで実は繋がりがあるので、短編集だからといって空いた時間にちまちま読んでいると前半の内容を忘却し、後半の驚くべき事実がまったく理解できなくなるのでご注意を。

 

主として人体をバラバラにした理由がフィーチャーされる本作品ですが、短編ごとに時系列もバラバラです。

 

この小説に向いている人

・バラバラ殺人(人体切断)が好き。
ホワイダニット(なぜそうしたか)を重視している。
・安槻大カルテットが好き。

 

この小説に向いていない人

グロテスクな描写を過度に期待している。
・安楽椅子探偵は好きじゃない。
・羽迫由起子(ウサコ)が登場する作品を読みたい。

 

まとめ

扱われる事件はどれもこれも人体切断ばかり。「いったいどれほど惨たらしい場面が描写されるのか」と、本作品に対して及び腰にもなるのも無理からぬことだと思います

 

しかし不安を助長するような表紙とは裏腹に、意外にもそういったグロテスクな描写はほとんど見当たりません

 

あくまで作品の売りはグロではなく"謎と解決"ということなのでしょう。この小説におけるバラバラ殺人は猟奇ではなくパズルというわけです。少々論理が飛躍し過ぎている推理が見受けられるのはご愛敬ですが。

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

占星術殺人事件

作者は島田荘司
人体切断といえば外せない作品のひとつです。

殺人方程式 切断された死体の問題

作者は綾辻行人
あの綾辻行人がガチガチの機械(物理)トリックで勝負する作品です。

 

 

首無の如き祟るもの

作者は三津田信三
刀城言耶シリーズ の第3長編です。
連続首無し事件が扱われます。

 

密室密室蒐集家

作者は大山誠一郎
タイトル通り密室に特化したミステリ短編集です。
密室尽くしというコンセプトはこれに限らず、多く作品で使用されています。