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双生児トリックの使用を堂々と宣言するミステリ【殺しの双曲線】

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~旅情ミステリーではありません~
西村京太郎『殺しの双曲線』講談社

 

 

 

あらすじ

 

差出人不詳の、東北の山荘への招待状が、六名の男女に届けられた。

しかし、深い雪に囲まれた山荘は、彼らの到着後、交通も連絡手段も途絶した陸の孤島と化す。

そして、そこで巻き起こる連続殺人。

 

引用元:講談社BOOK倶楽部

(https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000206049)

 

 

忙しい人向け(三行)

都内での強盗事件
山荘での殺人事件
ふたつの事件の接点は……

 

特徴

本書の最大の特徴は、双生児トリックの使用を公言していることにあります。


冒頭には、次のような文章が挿入されています。

 

 

 

この本を読まれる方へ 

この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです。
何故、前もってトリックを明らかにしておくかというと、昔から、推理小説にはタブーに似たものがあり、例えば、ノッックス(イギリスの作家)の「探偵小説十戒」の十番目に、「双生児を使った替玉トリックは、予め読者に知らせておかなければ、アンフェアである」と書いてあるからです。
こうしたタブーは、形骸化したと考える人もいますが、作家としては、あくまで、読者にフェアに挑戦したいので、ここにトリックを明らかにしたわけです。
これで、スタートは対等になりました。
では、推理の旅に出発して下さい。

 

引用元:(新装版 殺しの双曲線、2012年、講談社)

 


挑戦的な試みです!


物語は"奇妙な強盗事件""雪の山荘での殺人事件"交互に語られる形で紡がれていきます。


ただし、アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』の重大なネタバレがあるので、未読の方はご注意ください!

 

主要登場人物

戸部 京子(とべ きょうこ)
語り手曰く、十人並みの平凡なOL。
会社ではタイピストを務めている。
森口克郎とは婚約関係にある。

 

森口 克郎(もりぐち かつろう)
語り手曰く、平均的なサラリーマン。
趣味は麻雀。
戸部京子とは婚約関係にある。

 

太地 亜矢子(たじ あやこ)
化粧の濃い派手な女性。
夜のお店で働いている。

 

矢部 一郎(やべ いちろう)
現代(昭和)風の青年。
東京でサラリーマンをしている。

 

五十嵐 哲也(いがらし てつや)
度の強い眼鏡をかけた男性。
大学で犯罪学を研究しており、筆跡鑑定に自身を持っている。

 

早川 謙(はやかわ けん)
長身の青年。
ホテル(山荘)の経営者。

 

田島 信夫(たじま のぶお)
タクシードライバーの男性。

 

この小説に向いている人

・テンポのいい文章が好き。
・挑戦的な試みが好き。
双子を利用したミステリを読みたい。

 

この小説に向いていない人

計画が首尾よく進み過ぎる(ご都合主義的な)展開はしらける。
・淡々とした文体は好みじゃない。
・クローズド・サークルに探偵役の存在を求めている。

 

まとめ

1971年に刊行された作品のため、さすがに隔世の感は禁じえません


DNA鑑定もなけば携帯電話もないし、物価だって大いに異なります。


『高くも安くもない200円の定食』なんて一文は顕著ですね。

 

もっとも、それが本作の魅力のひとつであるとも言えます。


当時の世相を垣間見ると同時に、その時代が抱えていた空気感を追体験させてくれるのですから。

 

しかし……


どの謎に重きを置くかで、評価が分かれる作品だと思います。


殺人事件や密室の謎を解こうと躍起になると、拍子抜けするかもしれません。

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

星降り山荘の殺人

作者は倉知淳長編です。
物語の場面ごとにナレーションが挿入されています。
"探偵が登場する"とか"読者はここまでの情報で真相が推理できる"等々……
着目すべき箇所を説明してもらえるのはフェアですね?
当ブログでの紹介記事はこちら。

 

 


叙述トリック短編集

作者は似鳥鶏短編集です。
こちらの作品は叙述トリックの使用を宣言しています。

まあ、この著者の叙述トリック観は少々特殊な気がしないではありませんが……。