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一見何のひねりもないタイトルに思えるが実は……【名探偵 木更津悠也】

〜銘探偵ではなく名探偵〜
麻耶雄嵩『名探偵 木更津悠也』光文社

 

 

 

 

収録作品とあらすじ

1.「白幽霊」
京都某所の古めかしい洋館で資産家が刺殺された。
しかし、被疑者である家族には鉄壁のアリバイがあり……


2.「禁区」
巷で噂される"白幽霊"が実在するのか、確認に向かった高校生たちの前に本当に"白幽霊"が現れた。
その後、まるで呪いが降りかかったかのように、彼らのうちひとりが死体となって発見される。その死体は"白い"石灰に埋まっており……


3.「交換殺人」
とある会社員は居酒屋で見知らぬ男と交換殺人の約束をした。
標的だった男が殺されるも、会社員は手を下しておらず……


4.「時間外返却」
一年前に行方不明になっていた女子大学生が死体となって発見された。
失踪当日に彼女はビデオをレンタルしていたが、翌日には返却されており、けれどもビデオテープには彼女の血痕が残っていて……

 

主要登場人物

木更津 悠也(きさらづ ゆうや)
京都の名探偵。
幼少の時分、母親に「時間を無駄にするな」としつけられた。

 

香月 実朝(こうづき さねとも) 
木更津の友人。
推理作家。語り手。

 

特徴

麻耶雄嵩のデビュー作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』に登場した名探偵・木更津悠也が活躍する短編集です。

 

同作者の探偵といえば"銘"探偵・メルカトル鮎の印象が強いかもしれませんが、香月を通して語られる木更津探偵もなかなかに魅力的なキャラクター性を備えています。

 

もっとも、語り手である香月も非常に興味深い"語り"をする人物なので、ミステリ的な部分を楽しむだけでなく、彼の語りの技術と構造に着目する読み方をしても面白いかもしれません。

 

なお、本作品は『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』の部分的なネタバレが含まれているので、先にそちらを読んでおくことを強く推奨します。

 


 

 

この小説に向いている人

ある程度ミステリに読み慣れている。
・ロジックを重視している。
・木更津&香月のコンビが好き。

 

この小説に向いていない人

派手なトリックを期待している。
・重厚なストーリーを求めている。
・明るい気分になる小説が読みたい。

 

まとめ

麻耶雄嵩にしては比較的素直なミステリ短編集です。

 

ただし、古典的な探偵像を皮肉る描写にカチンとくることもあるかもしれません。

 

が、そこはまあ語り手が香月なので……

 

読み終えたとき、この作品の題名について深く考えさせられることでしょう。