~魔法で事件解決のプロセスを圧縮~
東川篤哉『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』文藝春秋
収録作品とあらすじ
1.「魔法使いと逆さまの部屋」
映画監督の妻が殺害された。
クイーンの某作品よろしく事件現場は椅子やテーブル、テレビなどが逆さまになっており……
2.「魔法使いと失くしたボタン」
とあるマッチョは八王子でダイエットジムを経営していた。
彼の爽やかなスマイルは多くの女性を魅了し……
3.「魔法使いと二つの署名」
とある芸能プロダクションの社長が亡くなった。
現場には長文の遺書が残されていたが……
4.「魔法使いと代打男のアリバイ」
『球界の渡り鳥』の異名を持つ元プロ野球選手が殺害された。
彼には『夜の四番打者』という蔑称もあり……
主要登場人物
小山田 聡介(おやまだ そうすけ )
八王子署の若き刑事。
上司の椿木警部に罵られることに快感を覚える変態でもある。
マリィの正体を見抜き、たびたび捜査に協力してもらっている。
椿木 綾乃(つばき あやの)
"八王子市の椿姫"の異名を持つ警部。39歳の独身。
惚れっぽく、事件の被疑者に心を寄せることしばしば。
聡介の憧れの女性でもある。
マリィ
箒を後生大事に持ち歩く三つ編みの少女。
その正体は魔法使いであり、超常的な力を持っている。
箒の柄に跨るのではなく、横座りをする上品な空の飛び方をする。
特徴
若手刑事と魔法使いが活躍する連作短編集です。
まさに異色の組み合わせですが、きちんとミステリとしてまとまっています。
魔法で犯人に自白させてからの証拠固め、というのが本作品のお約束。
刑事側は"魔法"で誰が犯人か早い段階で把握しますが、魔法には"証拠能力"がありませんので……
この小説に向いている人
・登場人物の会話劇を重視している。
・重たいストーリーの小説は読みたくない。
・コミカルなキャラクターが好き。
この小説に向いていない人
・重厚なストーリーを求めている。
・コミカルなキャラクターが苦手。
・トリックの図解を眺めるのが好き。
まとめ
気負わずサクっとミステリを読みたい方にオススメの短編集です。
トリックも犯人限定のロジックも薄味ですが、やはりこの作品の醍醐味は登場人物による軽妙洒脱な掛け合いにあるといえるでしょう。
作品のノリ(?)が合うかどうかが、楽しめるかどうかの分かれ目だと思います。
追記①この作品が好きな方にオススメ
魔法使いと刑事たちの夏
続編です。
さよなら神様
作者は麻耶雄嵩。連作短編集。
各物語の冒頭で全知全能の神様が犯人の名前を明示します。
この特殊設定を逆手に取った展開もあり……
ものすごい作品なので、気になる方はぜひ読んでみてください。
スノーホワイト
作者は森川智喜。
"なんでも知ることのできる鏡"が登場します。
「真相が分かっても、事件を解決できないもどかしさ」も描かれています。
春期限定いちごタルト事件
著者は米澤穂信。
謎過ぎる関係の男女コンビが活躍する日常ミステリです。
ミステリー・アリーナ
作者は深水黎一郎。
ミステリマニアたちが、早い者勝ちの犯人当てクイズに挑みます。
前代未聞のトリックと挑戦的な構造が魅力的なミステリです。