本格ミステリ紹介所

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殺人鬼のオールスター感謝祭【名探偵のはらわた】

〜昭和史に残る極悪犯罪者たちが大復活〜
白井智之『名探偵のはらわた』新潮社

 

 

 

 

あらすじ

 

 

「亘(わたる)君、君は真実を語るべきだ」農薬コーラ毒殺魔、局部切断女、そして恐怖の三十人殺し! 昭和史に残る極悪犯罪者たちが地獄の淵から甦(よみがえ)り、現代日本で殺戮の限りを尽くす。空前絶後の惨劇に立ち上がった伝説の名探偵は、推理の力でこの悪夢を止められるのか。「疑え――そして真実を見抜け」二度読み必至の鮮やかな伏線回収、緻密な論理(ロジック)による美しき多重解決。本格ミステリの神髄、ここにあり。 

 

引用元:新潮社ウェブサイト
(https://www.shinchosha.co.jp/book/104481/)

 

主要登場人物

原田 亘(はらだ わたる)
浦野探偵事務所で助手として働いている青年。
腕っぷしと体格に秀でる。愛称は「はらわた」。

 

浦野 灸(うらの きゅう)
浦野探偵事務所の所長。
20年にわたり警察に協力し、多くの難事件を解決に導いた功績がある。

 

みよ子
東京大学文学部の4年生。おおむね可愛らしい容姿をしている。
父親は松脂念雀。

 

松脂 念雀(まつやに ねんじゃく)
日本最凶と謳われる指定暴力松功会の直参にして、二次団体である「松脂組」の組長。
浅黒い肌、短く刈った髪、熊のような図体をしている。

 

刑部 九条(おさべ くじょう)
日本最大規模の指定暴力団、荊木会の二次団体「刑部組」の組長。
オールバックの髪型をした精悍な男。

 

古城 倫道(こじょう りんどう)
大正から昭和初期にかけて活躍した探偵。
シベリアで砲弾の被害に遭い、脳の三分の一が欠けたので「半脳の天才」と呼ばれた。

 

特徴

かつて日本で実際に起きた凶悪事件を下敷きにしたミステリです。

殺人鬼が地獄から蘇り、探偵が再度ぶっ殺しにいく」という壮絶な物語が展開されます。

 

元ネタとなった事件は現実に起きているので、その一部を紹介します。

 

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阿部定事件(作中では八重定事件)
1936年(昭和11年)5月18日、阿部定(あべ さだ)が愛人の男性を絞殺し、局部を切り取った事件。

 

事件発覚当時、阿部定が切り取った局部を大事に保管していたことから「純愛」として扱われる側面もあるとかなんとか。

 

ちなみに人気俳優"阿部サダヲ"の芸名は阿部定から拝借したらしいです。

 

※阿部定(左の女性)と被害者である石田吉蔵(右の男性)

阿部定 殺人犯 局部切り取り 局部切除 変態

出典:文春オンライン 恋人の「局所」を切り取った阿部定事件の真相

(https://bunshun.jp/articles/-/12016)

 

 

※俳優の阿部サダヲさん。

阿部サダ

出典:阿部サダヲ - 大人計画 OFFICIAL WEBSITE

(https://otonakeikaku.net/artist/52/)

 

 


青酸コーラ無差別殺人事件(作中では農薬コーラ事件)
1977年(昭和52年)1月4日、公衆電話ボックスに置かれていたコカ・コーラを飲んだことで男子高校生が死亡した事件。

 

これを発端に第2第3の事件も立て続けに惹起し、一連の事件を併せて青酸コーラ無差別殺人事件として扱われることも。

 

警察の懸命な捜査もむなしく、1992年(平成4年)1月に公訴時効が成立し、未解決事件となりました。

 

※画像は青酸カリことシアン化カリウムの粉末。

青酸カリ シアン化カリウム コナン

出典:indiamart

(https://www.indiamart.com/proddetail/potassium-cyanide-powder-26164750797.html)

 

 

成人の経口致死量はおよそ200mg/人と推定されています。

ちなみに舌で触れると鉄臭い金属的な味が感じられるそうな。

※もちろん実際には絶対に舐めてはいけません。フリでもなんでもなく、本当に深刻な事態に繋がる恐れがあります。某漫画の主人公がペロッと舐めているシーンがネットに出まわっていますが、あれもただのコラージュ画像ですからね。

 

 


津山事件、津山三十人殺し(作中では津ヶ山事件)
1938年(昭和13年)5月21日に岡山県の貝尾・坂元両集落で起きた大量殺人事件。

 

犯人である都井睦雄(とい むつお)はわずか2時間足らずのうちに近隣住民28名を即死させ、5名に重軽傷を負わせ、最後に自殺しました。

 

横溝正史『八つ墓村』のモチーフになった事件でもあります。

 

 

※都井睦雄の写真。

都井睦雄

出典:文春オンライン 21歳の青年が猟銃と日本刀で30人を襲撃……82年前の世界的事件「津山三十人殺し」とは

(https://bunshun.jp/articles/-/38563)

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以上が主要な事件であり、往時の出来事が想定外のアングルから再考察されます。

さらに作品内で犯人を復活させてしまうわけですから、非常に挑戦的なミステリであると言うほかありません。

 

(これらの事件をエンタメに昇華するのは批判があって然るべきだとは思いますが、古い事件のためか、現在のところあまりそういった言論は目立っていませんね。そもそも"殺人"をエンタメにする本格ミステリというものが(以下略))

 

 

この小説に向いている人

倫理観を欠いた表現が気にならない。
・挑戦的な試みが好き。
・コミカルなキャラクターが好き。

 

この小説に向いていない人

・気持ちが悪くなるような表現が苦手。
不謹慎な表現がある小説は読みたくない。
・グロテスクな描写を大量に摂取したい。

 

まとめ

グロテスクな印象が先行しがちな白井作品ですが、本小説はそういった描写がだいぶマイルドになっています。

 

過激な表現を目当てにして読むと、少しばかり肩透かしを食うかもしれません(あくまで他の白井作品と比べて)

 

合わない人にはとことん合わない小説ですので、購入前に試し読みをして雰囲気だけでも掴むことをオススメします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで、表紙のキャラクターは誰なんですかね……?

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

名探偵のいけにえ

同著者の作品。

『名探偵のはらわた』の登場人物のうち、この作品で活躍する人物もいます。
こちらは1978年11月にガイアナ共和国で起きた人民寺院事件をモチーフにしています。

 

 

お前の彼女は二階で茹で死に

同著者の作品。
より刺激的な描写を摂取したい方にオススメ。

 

 

怪奇探偵・写楽炎1 蛇人間

作者は根本尚

ものすごく丁寧に作られた本格ミステリ漫画です。

怪人と呼ばれる血も涙ない連中が大暴れしてくれます。

 

 

監禁探偵

他媒体に映画・小説もありますが、漫画(全2巻)が初出です。

登場人物のイカレっぷりを重視している方向け。