~辞書と見紛うほどの文庫本の厚み~
柄刀一『密室キングダム』光文社
あらすじ
昭和最後の夏に、札幌で起きた密室連続殺人事件。それは、伝説的な奇術師・吝一郎の復帰公演が発端だった。吝家を覆う殺意の霧の中に浮かぶ忌まわしき宿縁――。妖艶にして華麗、絢爛という言葉さえ似合う不可能犯罪の連鎖に、若き推理の天才・南美希風が挑む。瞠目せよ! そして驚愕せよ!
奇跡を現出して、読者を魅了する本格の旗手が放つ渾身の巨編千八百枚!
引用元:(『密室キングダム』、2010年、光文社)
主要登場人物
吝 一郎(やぶさか いちろう)
"壇上のメフィスト"の異名を持つオカルト・マジシャン。
怪しげな老人のメイクをしている。
吝 冬季子(やぶさか ときこ)
一郎の妻。元マジシャン。
吝 流生(やぶさか りゅうせい)
一郎と冬季子の子。
五歳の男児。
吝 紫乃(やぶさか しの)
一郎の姉。
変わり者と評されるこの多い、マイペース型の女性。
南 美希風(みなみ みきかぜ)
一郎が運営するマジック・スクールの生徒。
本作品の探偵役。
南 美貴子(みなみ みきこ)
美希風の姉。
幼い頃から病弱な弟を"保護"し続けてきた。
早坂 君也(はやさか きみや)
一郎の昔からのマジック仲間。
芸名は"ジョッキー早坂"。地方を巡回する仕事が多い。
山崎 良春(やまざき よしはる)
一郎のアシスタントを務める少年。
たくましい身体つきの一方で、愛嬌のある顔をしている。
細田 寿重(ほそだ とししげ)
吝邸の執事。
紳士淑女に仕える高級執事といった風貌。
遠野宮 龍造(とおのみや たつぞう)
美貴子の叔父。元警察幹部。
現在は防犯器具メーカーの会長の座についている。
特徴
南美希風シリーズの第4作目です。
舞台は昭和末期の北海道で、タイトル通り"密室"がテーマの長編となっています。
まずもって目を引くのは、辞書と見紛うほどの文庫本の厚みでしょうか。
ページ数は1,200を超しており、重さにして700g(リンゴ2個分くらいの重量)あります。
筋運びのテンポは決してよいとは言えませんが、その分"密室"についての考察は非常に緻密な仕上がりになっています。
"密室"好きであれば、シリーズ初読の方でも楽しめるでしょう。読み切ったあとにはある種の達成感が待っているかもしれません(?)
この小説に向いている人
・"密室"が好き
・機械(物理)トリックもそれ以外のトリックも好き。
この小説に向いていない人
・長い小説は読むだけの時間がない。
・登場人物が多い作品は苦手。
まとめ
一般的な小説3冊分――まさに大長編と呼ぶにふさわしい本作は、全編“密室”に満ちています。その膨大な分量は決して冗長ではなく、密室ミステリの面白さが凝縮されているといっていいでしょう。
探偵役の美希風は「密室には、意味がある」と語ります。そのひとことが、物語の方向性を示しているといえるでしょう。密室は単なるトリックの場ではなく、物語に深い意味を与える装置として機能しているのです。
長い作品ゆえに読むには覚悟が必要ですが、それに見合う知的興奮と充足感が待っているはずです。
追記①この小説が好きな方にオススメ
哲学者の密室
作者は笠井潔。
こちらの作品も"密室"ものであり、物理的に"厚い"です。
事前に古典ミステリを読んでおくと、より楽しめます。
有栖川有栖の密室大図鑑
古今東西の小説に登場する"密室"がイラストで可視化されています。
"読んでよし"、"眺めてよし"な一冊です。
ブックガイドとしても利用できます。
密室密室蒐集家
作者は大山誠一郎。
タイトル通り密室に特化したミステリ短編集です。