~羊羹(ようかん)が食べたくなるミステリ短編集~
有栖川有栖『暗い宿』KADOKAWA
あらすじと収録作品
【あらすじ】
“宿”を舞台に巻き起こる難解な事件に、火村&有栖川の人気コンビが挑む!
鄙びた日本旅館、洗練されたリゾート・ホテル、高級感溢れるシティ・ホテル……。
様々な“宿”で発生する難解な事件に、犯罪社会学者・火村助教授と推理作家・有栖川有栖の人気コンビが挑む、新本格ミステリ短編集!
引用元:KADOKAWAオフィシャルサイト
(https://www.kadokawa.co.jp/product/200000000217/)
【収録作品】
1.「暗い宿」
取材旅行も兼ねて、奈良県の西吉村(現在の五條市)に羽を伸ばして向かったアリス。
以呂波旅館という看板を掲げたボロ家に一泊するも、何かを掘り起こすような音がして……
2.「ホテル・ラフレシア」
編集者に乞われ、石垣島にあるホテルに足を運んだアリス。
どうやら「ラフレシア殺人事件」という名の犯人捜しゲームが催されるようだが……
3.「異形の客」
旅館に異形の客が現れた。
帽子、サングラス、マスク、革手袋、トレンチコート。極めつけに、顔には包帯がぐるぐると巻かれている。
翌日、この来客と思しき人物が変わり果てた姿で発見され……
4.「201号室の災厄」
同僚の計らいにより、高級ホテルに格安料金で泊まることになった火村。
自室と間違えて覗き込んでしまった部屋には女性の死体があり……
紆余曲折を経て、ロックスターの男と命のやり取りが始まる。
特徴
作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)の第10作目。
表題作を含め、4作が収録された短編集です。
舞台は宿(ホテル)で統一されていますが、筋運びは作品ごとに異なった趣向が取り入れられています。
文章も遊びごころが合って味わい深いものがありますね。
合う合わないはあるでしょうが例えば"羊羹(ようかん)"の描写なんて素敵ですよ。
女将さんが皿にのせていった羊羹が、ぽつんとある。菓子というより、一個の静物に見えてしまう。寝る前にさっさと食べてしまおうと思いながら、私は皿を目の高さまで持ち上げる。羊羹を熟視したことなどなかったが、間近に観察すると、その黒っぽい塊はさながら凍った闇のようだった。
二つに割り、片方に串を刺して──甘い闇を飲み込む。胃の中でそれは黒い光を放つのでは、と思えた。
引用元:(『暗い宿』、2009年、KADOKAWA)
登場人物
有栖川 有栖(ありすがわ ありす)
≪作家アリスシリーズ≫のキャラクターとしての有栖川有栖。
推理作家であり、≪学生アリスシリーズ≫を執筆している(という設定)。
火村のフィールドワークに助手という名目でしばしば同行する。
大阪生まれ大阪育ち。
火村 英生(ひむら ひでお)
京都の私大・英都大学社会学部の准教授。
犯罪の現場に赴いて、警察の捜査に参画(フィールドワーク)するのが研究手法を採っている。
これまでにいくつもの難事件を解決に導いた実績があるので、警察当局もそんな彼のフィールドワークに協力的。
北海道生まれ。
この小説に向いている人
・火村&アリスのコンビが好き。
・ロジックを重視している。
・宿、ホテル、旅館が好き。
この小説に向いていない人
・重厚なストーリーを求めている。
・トリックを重視している。
・派手な事件が好き。
まとめ
"宿"をテーマにした作品を4つ楽しめる短編集です。
作品ごとに雰囲気を異にしていて、色々なテイストが楽しめます。
とはいえ、宿の裏事情について写実的に描写されているわけではないので、その点には期待しすぎないように。
収録作品では「201号室の災厄」がイチ推しです。
追記①この小説が好きな方にオススメ
鍵の掛かった男
同著者の作品。
作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)です。
同じく舞台は宿(ホテル)ですが、こちらは長編です。
怪しい店
作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)の第22作目。
今度は"お店"がテーマの短編集です。
虹果て村の秘密
同著者のジュブナイルミステリです。
ミステリの面白さはトリックだけではないと教えてくれる聖典です。