~図書委員の仕事を覗けます~
米澤穂信『本と鍵の季節』集英社
収録作品とあらすじ
1.「913」
図書委員の堀川次郎と松倉詩門が図書当番の仕事をしていると、顔なじみの先輩が「アルバイトしない?」と声をかけてきた。
どうやら亡くなった祖父の金庫が開かないらしく、暗号らしきメッセージが遺されているというのだが……
2.「ロックオンロッカー」
図書委員の堀川と松倉は揃って同じ美容院を訪れた。常連の堀川は普段と異なる店員の対応に違和感を抱き、理由を推理してみせようとする。
ところが、松倉がわざとらしく話題を逸らしてきて……
3.「金曜に彼は何をしたのか」
堀川と松倉に、図書委員の後輩から「兄が無実である証拠を見つけてほしい」との相談が持ち込まれた。
ふたりは後輩の家を訪れることになるが……
4.「ない本」
またしても堀川と松倉に相談が持ち込まれた。相談者は面識のない先輩で、自殺した友人が最後に読んでいた本を探しているとのこと。
本は四六判のハードカバーということ以外、具体的なことは何もわからないらしく……
5.「昔話を聞かせておくれよ」
堀川と松倉は自分の"昔話"を語り合うことなった。テーマは"宝探し"。
松倉が語る"昔話"に不穏な匂いを感じた堀川は……
6.「友よ知るなかれ」
※ネタバレ防止のため割愛。
主要登場人物
堀川 次郎(ほりかわ じろう)
高校二年生。図書委員。
他人から御しやすいと思われがち。
本小説の語り手。
松倉 詩門(まつくら しもん)
高校二年生。図書委員。
背が高くて顔もよく、スポーツも得意。
シニカルな一面もある。
特徴
男子高校生ふたりを主役に据えた連作短編集。物語の軸となるのは日常ミステリ、すなわち日常の謎の解明ですが、そこに描かれるのは謎だけではありません。
ふたりの関係性は、よくあるホームズとワトソンのような明確な役割分担ではなく、どこか曖昧で青臭さを感じさせるものです。謎解きを通じて少しずつ明らかになるふたりの価値観の違いや、互いへの思いは、本作を単なるミステリ以上のものにしているといえるでしょう。
また、図書委員が主人公という設定にふさわしく、図書や書物にまつわる豆知識が散りばめられている点も、本作の特色でしょう。こうした知識がさりげなく物語に溶け込み、読み進める楽しさを一層引き立てています。
本の上と下のことは「天」「地」といい、そこに押す蔵書印は天地印という。これを押すのは案外デリケートな作業で、文庫本が相手だと特に緊張する。
引用元:(『本と鍵の季節』、2021年、集英社)
図書委員の仕事が覗けることも魅力のひとつですね。
この小説に向いている人
・ロジックを重視している。
・高校生の青臭い友情が気になる。
・図書委員の仕事に少し興味がある。
この小説に向いていない人
・派手なトリックを求めている。
・刺激的な事件が起きないと興味が持続しない。
・明るい気分になる小説が読みたい。
まとめ
日常ミステリ――いわゆる「日常の謎」をテーマとした連作短編集です。
ド派手なトリックや驚天動地の展開があるわけではありませんが、日常生活のなかに見いだされる謎がひとつひとつ解き明かされていく過程は、十分な説得力と満足感を与えてくれます。謎解きのプロセスそのものが本作品の魅力と言えるでしょう。
さらに、主役のふたりが織りなす人間模様も見どころのひとつ。ミステリという枠を越え、人間関係の機微や心理描写が精緻に描かれています。
追記①この作品が好きな方にオススメ
栞と嘘の季節
続編です。
この小説の発表により、〈図書委員シリーズ〉という新たな作品群が誕生しました。
空飛ぶ馬
作者は北村薫。
いわゆる日常ミステリ(日常の謎)に先鞭をつけた作品です。
ノッキンオン・ロックドドア
作者は青崎雄吾。
青年探偵ふたりのコンビが活躍します。
こちらは一部を除き、日常ミステリ(日常の謎)ではありません。
全体的にライトな雰囲気です。
春期限定いちごタルト事件
同著者の作品。
謎過ぎる関係の男女コンビが活躍する日常ミステリです。