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本物のマジシャンが書いた奇術ミステリ【11枚のとらんぷ】

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~挑戦的な構成の妙~
泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』東京創元社

 

 

 

 

あらすじ

 

奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集「11枚のとらんぷ」で使われている小道具が、毀されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが……。奇術師としても高名な著者が華麗なる手捌きのトリックで観客=読者を魅了する、泡坂ミステリの長編第1弾!

 

引用元:東京創元社オフィシャルサイト
(https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488402297)

 

 

 

主要登場人物

牧 桂子(まき けいこ)
長身の女性。アマチュアマジシャンの集まり――マジキクラブの一員。
作中の演目では一番バッターを務める。


鹿川 舜平(かがわ しゅんぺい)
古本屋を経営する男性。マジキクラブの創設者。
作中作『11枚のとらんぷ』の編纂者。


松尾 章一郎(まつお しょういちろう)
カードの扱いに長けた男性。マジキクラブの一員。
奇術に関する洋書をよく読み込んでいる勉強家。


大谷 南山(おおたに なんざん)
白髪の男性。マジキクラブの一員。
奇術ショウでは司会を務める。


水田 志摩子(みずた しまこ)
ミステリアスな美しい女性。マジキクラブの一員。
周囲のマジシャンが舌を巻くほどの奇術の才能がある。

 

和久 A(わく はじめ)
風変りな名前の若者。マジキクラブの一員。

初舞台で"鳩"を用いた曲芸に挑むチャレンジャー精神を持ち合わせている。

 

品川 橋夫(しながわ はしお)
指の太い男性。マジキクラブの一員。
警察病院の外科医としては高名な存在。

 

五十島 貞勝(いそじま さだかつ)
マジキクラブの一員。
他の奇術クラブとも親交がある。


飯塚 晴江(いいづか はるえ)
マジキクラブの一員
婦人洋服店のデザイナー。


飯塚 路郎(いいづか みちろう)
晴江の夫。

 

特徴

なんと著者である泡坂妻夫は本物の奇術師であり、直木賞作家でもあります。筆名は本名である厚川昌男のアナグラムです

(あつかわまさお→あわさかつまお)。

 

そんな異色の経歴を誇る泡坂妻夫の『11枚のとらんぷ』ですが、中身は次のような3部構成になっています。

 

 

第Ⅰ部
物語の導入パート。アマチュア奇術師たちの演目~事件が発生するまでの過程が描かれます。


第Ⅱ部
作中作の掌編集『11枚のとらんぷ』が語られるパート。
奇術に彩られた11の掌編として単品でも楽しむことができます。
収録作品とその内容は次の通り(ネタバレ防止のため一部伏字)。奇術ショウとしてもミステリとしても魅力的な物語です。


第1話:新会員のために
 トランプの〇〇〇〇を利用したトリック。

 

第2話:青いダイヤ
 化学的な〇〇〇〇〇を利用したトリック。

 

第3話:予言する電報
 トランプの〇〇を〇〇〇〇するトリック。

 

第4話:九官鳥の透視術

 九官鳥が〇〇〇〇〇のトリック。

 

第5話:赤い電話機
 電話機は〇〇〇〇というトリック。

 

第6話:砂と磁石
 人間の〇〇〇〇を利用したトリック。

 

第7話:バラのタンゴ
 今度は人間の〇〇〇を利用したトリック。

 

第8話:見えないサイン
 視覚的な〇〇〇〇を利用したトリック。

 

第9話:パイン氏の奇術
 人格的な〇〇を〇〇〇〇するトリック。

 

第10話:レコードの中の予言者
 レコードの〇〇〇〇を使ったトリック。

 

第11話:闇の中のカード
 カードに〇〇〇〇〇〇をするトリック。

 

メタ的には言うまでもないことですが、これらの掌編は第Ⅰ部の事件とは無関係ではありません。

どこに"手がかり"が隠れていのるか目を凝らして読み込む面白さもありますね。


第Ⅲ部
推理&解答編です。
犯人限定に用いる"手がかり"は必見ですよ。

 

 

以上。なんとも挑戦的な構成が奏功し、他に例を見ない不思議な読後感を残す作品となっています。

 

 

この小説に向いている人

・奇術(マジック、手品)が好き。
・ロジックを重視している。
・いわゆるドタバタ劇が好き。

 

この小説に向いていない人

展開の遅い物語は退屈に感じてしまう。
・奇術に興味がない。

 

まとめ

三部構成であり《事件発生→作中作『11枚のとらんぷ』→推理&解答編》という順を踏む独特な作風の小説です。

 

型破りな物語はともすればその収拾がつかなくなりがちですが、そこは実力派作家の泡坂妻夫です。伏線を丁寧に回収する手際はさすがのひとこと。

 

奇術師が眺める景色やその心理を追体験できるのも魅力的な点ですね。我々は基本的に手品を表側から見る立場にありますが、その裏側を知るのはちょっと秘密を暴くような背徳的な面白さがあります。

 

と、これまで本作の魅力を紹介してきましたが、懸念があるとすれば物語の展開の遅さでしょうか。近年のミステリの定石といえば「死体を早く転がせ」というタームに代表されるよう、早くから読者に刺激的な体験をもたらすよう工夫が凝らしてあります。この点に鑑みると、例えば同じく展開の遅いミステリである殊能将之『ハサミ男』を途中で投げた方などには、奇術に興味がない限りは途中まで退屈に感じてしまう可能性があります。

 

もちろん序盤から中盤までの描写にも伏線が含まれているので、無駄な箇所などないのですが、もどかしく感じてしまう読者もいるのは確かです。この作品に手を伸ばすことを検討している方は、そういった要素も頭の片隅に置いておいたほうがいいでしょう。

 

ちなみに、私は最初から最後までものすごく楽しめました!

 

追記①この小説が好きな方にオススメ

帽子から飛び出した死

作者はクレイトン・ロースン(Clayton Rawson)。
いわゆるミス・ディレクション(心理誤誘導)を用いたトリックを得意とする作家です。この方も奇術師でもあります。

 

ミステリー・アリーナ

作者は深水黎一郎
ミステリマニアたちが、早い者勝ちの犯人当てクイズに挑みます。

前代未聞のトリックと挑戦的な構造が魅力的なミステリです。