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少女探偵が血と怪奇に彩られた事件に挑む【怪奇探偵・写楽炎】

~怪人VS探偵のサスペンス~

根本尚『怪奇探偵・写楽炎1 蛇人間』文藝春秋

 

 

 

 

 

収録作品とあらすじ

1.「一つ目ピエロ」

空手くんから怪人"一つ目ピエロ"の噂話を伝え聞いた写楽炎。当初は「ニュースソースはどこなの? 非科学的」と切り捨て相手にしなかったが、その日の帰り道で怪人と遭遇し……

 

2.「血吸い村」
怪人"吸血鬼"に毒を吞まされた被害者が、最後の力を振り絞って抱え込んだのはある植物の植木鉢で……

 

3.「踊る亡者」
ヒトデの生態調査にきていた写楽炎と空手くんは、自殺の名所である崖に人影を見つけ……

 

4.「蛇人間」
写楽炎と空手くんが部活動に励んでいると、実験部を探偵倶楽部と見込んだ相談が舞い込んできて……

 

主要登場人物

写楽 炎(しゃらく ほむら)

探偵役の女の子。実験部(同好会)所属。

頭脳明晰でメンタルも屈強。

幾度となく怪人に襲われて生命の危機に瀕するも、本人は至って平然としている。

 

空手くん(からてくん)

炎に助手としてこき使われる男の子。空手部(同好会)所属。

身体能力が非常に高く、怪人相手ですら戦闘面で優位に立ち回る。

本名は山崎陽介。

 

一つ目ピエロ(ひとつめぴえろ)

「一つ目ピエロ」に登場する怪人。

"生首を持って追いかけてくる"や"勇気ある人が追いかけたら煙となって消えた"など、その存在には恐ろしい噂がついてまわっている。

逃げ足がやたらと速い。

 

吸血鬼(きゅうけつき)

「血吸い村」に登場する怪人。

謎の毒薬や催眠ガスの使い手。

隠れキリシタンの村に眠る財宝を狙っている。

意外とすばっしこいところがある。

 

エビス(えびす)

「踊る亡者」に登場する怪人(?)。

恵比須様を模した面をかぶっており、モーニングスターの扱いに長ける。

運動神経もよく、異様に足が速い。

 

蛇人間(へびにんげん)

「蛇人間」に登場する怪人。

全身は鱗におおわれており、口は大きく裂けている。

怪人の常に漏れず、足が速い。

 

特徴

怪奇に彩られた江戸川乱歩的な世界をベースに、少女探偵・写楽炎が難事件に挑みます

 

いずれの事件も探偵の前に立ち塞がるのは、異形の存在に身を扮した怪人たちです。彼ら彼女らはいわゆる"悪役"ではありますが、探偵や警察を相手取った大立ちまわりは本作品の華といってもいいくらいの輝きを放っています。

 

※怪人のひとり「一つ目ピエロ」。

怪人 一つ目ピエロ

出典:根本尚『怪奇探偵・写楽炎1 蛇人間』文藝春秋、14頁

 

無駄に趣向を凝らしたトリックのためのトリック、名探偵への挑戦状、突如として顔を出す人間臭い殺人動機……実に素晴らしいではありませんか! 

 

さて、個人的嗜好は別にしても、本作品は非常に優れたミステリでもあります。特に漫画というメディアの活かし方には目を見張るものがあり、文字だけではなく絵(視覚情報)に手がかりを仕込む手腕は水際立っていますね

解決編において「伏線(推理に必要な材料)はここにあったよ」としっかり明示してくれるのも、嬉しいポイントですね。

 

注意点があるとすれば、少女探偵・写楽炎に対して残虐的なシーンがあるところでしょうか。

堂々と怪人に敵対宣言をするのだから仕方ないことではありますが、少女探偵が肌に蝋を垂らされたり、他人の血を無理やり飲まされたり、糸に絡めて水中に沈められたり……とにもかくにも痛めつけられるシーンがそれなりにあります。リョナラーと呼ばれる人種が歓喜しそう。

 

とはいえ、本当に面白い作品ではあるので、上記の注意点が気にならない方にはぜひ読んでいただきたい作品のひとつです。

こんな名探偵と犯人の真っ向勝負を描いた作品、きょうび本当に珍しいんですよ! 

 

この作品に向いている人

トリックを重視している。

・おどろおどろしい世界観が好き。

・漫画は背景にも注目して読む。

 

この作品に向いていない人

重厚なストーリーを期待している。

・リアリティのある人物造形を求めている。
・グロイ描写は少しでも見たくない。

 

まとめ

漫画と思ってあなどるなかれ、中身は一級の本格ミステリです。

 

このシリーズについて、著名なミステリ作家3名が推薦文を寄稿していますが、第1巻に相当する本作品には芦辺拓先生が「推薦の言葉」を綴っています。

 

 

 

 

よく王道の面白さとか、直球の作品と言いますが、実際にそれらと出会えるチャンスは、意外に少ないものです。よけいな要素抜き、物語の力だけで引っ張るのは難しいことですし、まして本格ミステリの場合は、プロットをひねり、語り口に仕掛けを施すのもテクニックですから、なおさらそうなりがちです。
でも、たまには名探偵と犯人の真っ向勝負を見たいと思いませんか。ド派手で意表を突いて、しかも堂々と読者の目をくらましてみせる、王道にして直球の探偵小説を!
根本尚さんは、活字の世界でも少ないそうした挑戦を、漫画でやり続けている作家です。少女探偵・写楽炎と相棒の空手くんが遭遇する事件には、不可能犯罪あり猟奇殺人あり。最後に明かされる真相にはアッと驚かされるばかりで、僕たちミステリ作家にも根本ファンが多いゆえんとなっています。
根本さんの漫画には、探偵小説の原点があります。これからミステリを読み始める方にも、読みすぎて面白さを見失った人にもおすすめです!

芦辺拓

 

引用元:(『怪奇探偵・写楽炎1 蛇人間』、2018年、文藝春秋)

 

 

 

とにかく、この作品はミステリとして本当によくできています。

元々はコミティアで頒布していた同人誌だったそうですが、文藝春秋が扱うにあたり、ひとつのコミックにまとめあげたそうな。

その際、なぜか電子書籍のみの販売となったようで……

 

どうしても紙媒体が欲しい場合には同人誌verを探す必要があります

 

 

追記①この作品が好きな方にオススメ

怪奇探偵・写楽炎2 妖姫の国

続編です。

 

 

 

人形紳士 少女探偵・火脚葉月 最後の事件

同著者の作品です。めちゃくちゃ面白いです。

なんとリンク先で無料で読めちゃいます

 

 

江戸川乱歩怪奇漫画館

乱歩作品のコミカライズです。