~ある意味インターナショナル(?)な本格ミステリ~
井上真偽『その可能性はすでに考えた』講談社
あらすじ
山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首無し聖人伝説の如き事件の真相とは? 探偵・上苙丞(うえおろじょう)はその謎が奇蹟であることを証明しようとする。
引用元:講談社BOOK倶楽部
(https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000212824)
オッドアイの探偵が
刺客たちと
推理バトル
主要登場人物
上苙 丞(うえおろ じょう)
オッドアイの探偵。碧眼白皙の美青年。
髪を青く染め、常時赤い服を着用している。
多額の借金を背負っているが、フーリン曰く「中国人の色彩感覚からは、ただただ福々しさしか感じない」。
姚 扶琳(ヤオ フーリン)
中国出身の美女。
他者から「容色婉なり」と称賛を受けるだけの容姿を誇る。
闇社会の金融業者にして上苙のパトロンヌ的存在。
渡良瀬 莉世(わたらせ りぜ)
上苙の探偵事務所を訪れた依頼人。
若い女性であり、おどおどと自信なさげな態度を見せる。
大門(だいもん)
檳榔樹(びんろうじゅ)のステッキを持つ老人。
元検察官。声がやたらとでかい。
宋 儷西(ソン リーシー)
細身の中国人女性。
美女というより育ちのいい美少女といった容貌。
フーリンの旧友でもある。
八ツ星 聯(やつほし れん)
小学六年生の天才少年。
かつて上苙の助手を務めていた過去がある。
カヴァリエーレ
イタリア人の枢機卿。
ローマ・カトリック教会の次期教皇の座に最も近いと噂される存在。
上苙丞とは浅からぬ因縁がある。
特徴
第51回メフィスト賞でデビューを果たした井上真偽の第二作目です。
事件に関する論戦が物語の大半を占める本作品は、一種の知的競技ともいえる趣向が凝らされおり、物語の展開は基本的に以下のサイクルに基づいて進行します。
②刺客が推理を披露
③探偵が推理が成立しないことを証明
上記のサイクルのなかで取り上げられるのは、山村で起きたカルト団体の集団自殺事件です。
「首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ」という、唯一の生存者である少女の不可解な記憶を手がかりに、上苙探偵と刺客たちは激しい論争を繰り広げます。
※基本的に上苙探偵は真相解明に向けて推理を進める立場ではなく、相手から提示される推理が成立しないことを証明する立場にあります。
この小説に向いている人
・いわゆる推理合戦が好き。
・コミカルなキャラクターが好き。
この小説に向いていない人
・重厚なストーリーを期待している。
・コミカルなキャラクターが苦手。
まとめ
推理対決をテーマにした多重解決ものとして、本作は全編にわたり推理の応酬が繰り広げられます。
刺客の提示する仮説は大胆で奇抜な発想に基づいており、上苙探偵がそれを論理的に否定する過程は読み応え十分。極端な推理のせめぎ合いが、物語全体の魅力を引き立てています。
ただしキャラクター造形はライトノベル的な要素が強く、一部の読者には馴染みにくいかもしれません。
追記①この小説が好きな方にオススメ
聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた
続編です。
可能性の否定がさらにパワーアップしています。
恋と禁忌の述語論理
同じ作者(井上真偽)の作品。
後半に探偵・上苙丞やフーリンが登場します。
虚構推理
作者は城平京。
一風変わった多重解決もの。
第12回本格ミステリ大賞。
スノーホワイト
作者は森川智喜。
"なんでも知ることのできる鏡"が登場します。
推理バトルっぽい展開があります。
ミステリー・アリーナ
作者は深水黎一郎。
ミステリマニアたちが、早い者勝ちの犯人当てクイズに挑みます。
前代未聞のトリックと挑戦的な構造が魅力的なミステリです。